将拓はただただ、黄杏に笑顔が戻る事だけを、願わずにはいられなかった。


そして黄杏を慕う信志は、次の夜も、黄杏に会いに来た。

だが黄杏は、やはり家に閉じ籠り、顔を見せようとはしない。

信志は立っている事に疲れたのか、軒下にある小さな樽の上に、腰かけた。

一国の王が、貧しい村の女に会う為に、そこまでするのか。

将拓は、軒下を訪れた。

「信寧……」

「いや、信志でよい。ここで身分が分かってしまえば、大事になる。それに、黄杏の前では、私も一人の男だ。」

そう言って微笑む信志に、将拓も微笑んだ。

「黄杏は、しばらく出てきません。黄杏があなた様に会ってもよいと言う時期になりましたら、私からお知らせします。」

「それでは、手遅れになってしまう。私がこの村にいられのは、もう数日しかない。」

追い詰められた信志の顔。

虚ろな顔の黄杏と、重なってくる。


「信志様。これは、偶然耳にした話なのですが。」