黄杏は、信志の顔を思い浮かべた。

端正な顔立ち、いい香りがしそうな雰囲気。

何より物腰が、柔らかい。


「そうね。」

「でしょう!黄杏、頑張りなさいよ!」

女の一人は、黄杏の背中を叩いて、励ました。

するともう一人、近くにいた女が、黄杏の耳元で囁いた。

「まだ、身体を許すんじゃないよ。」

「えっ?」

驚く黄杏に、女は話を続けた。

「散々体だけ弄んで、帰る時には知らない顔って言うのも、多く聞くからね。ちゃんと、連れて行って貰ってから、関係を結ぶんだよ。」

突然黄杏に振ってわいた、男と女の事情。

そんな事を信志が、するようには見えないけれど。

黄杏の胸の中では、ざわざわと何かが、うごめく。

信志の気持ちを、確かめた訳でもないのに。


ー 明日も、月が綺麗だといいね ー


黄杏は、明日が満月だと言う事を、思い出した。