そして黄杏も、月夜の晩に会った信志と言う役人を、忘れる事ができないでいた。

この村の男とは違う、洗練されていて、優しそうな人。

そして、月に見とれて池に落ちてしまうような人。


今日も会えないかと、宴の準備をした後、また庭に降りて見た。

「やあ、また会ったね。」

「信志!」

黄杏は、また信志に会えた事に、胸を弾ませていた。

「風邪はひかなかった?黄杏。」

「ううん。私、こう見えて丈夫なの。信志は?」

「私はこの通りだ。」

両手を広げると、見事な刺繍が施されている服が、黄杏の目に飛び込んできた。

「素敵。信志は、いつもこんな素敵な服を、着ているの?」

「うーん。大体はね。人の前では、しっかりした服を着なくてならないと、父上に言われてたからね。」

「そうなの。信志の家は、お金持ちなのね。」

こんな田舎の、小さな村で育った黄杏には、想像もできない世界だ。