「では、兄のいる娘は、条件に合わないと言うのは?」

「今後の政治の混乱を、招かない為でございます。」

忠仁は、信志の目の前に、膝を付いた。

「王は、敬虔の乱をご存じですか?」

「ああ。100年も前の、家来が起こした反乱だ。」

「その通り。敬虔は、当時の王の母君の兄上。つまり叔父上様に当たります。それから妃になられる方は、兄のいない娘だけと、定められています。」

「そう……か……」

信志は、唇を噛み締めた。

「白蓮様も紅梅様、いづれも第1子。青蘭様には兄上がいらっしゃいましたが、戦で王と共に撃ち果てられました。例外はございません。」

信志は、言葉もなかった。

何よりも歴史を重んじるのが、王の勤めだと、幼い頃より聞かされていたからだ。

「分かった。」

「ご理解頂き、安心しました。」

だが信志の頭には、あの無礼な程に、自分の心に入って来た黄杏が、浮かんでは消え、消えては浮かんできた。