「あなたは?あなたは、何て名前?」

「ああ……私は……」


私は王のお妃候補になれないの。

そう言う娘に、自分は王だと名乗ってよいものなのか。

信寧王は、悩んだ。

「どうしたの?自分の名前も、忘れたの?もしかして、さっき池に落ちたせい?」

「いやいや。」

悩んだ末、王は自分の名前を告げた。

「信志。」

「信志。素敵な名前ね。」

黄杏と本名を名乗った王は、月明かりの中、微笑んだ。


「服、早く乾かした方がいいわよ。」

「ああ、そうだな。」

「これ、返すわ。」

黄杏は、上着を信志に渡した。

「君が風邪をひくだろう。」

「私は、ここに着替えがあるから。じゃあね、信志。」

手を振って、黄杏は建物の中に、消えて行った。


その様子を見た信志は、今まで出会った事のない女に、笑いが止まらない。

濡れた服と帽子を持って、大広間に戻った後も、皆の心配を他所に、笑みが絶える事はなかった。