ある晴れた日。

信寧王は、庭先にたくさん咲く花々を、筆頭家来・忠仁と愛でていた。

「今年も、たくさんの花が、咲き誇りましたな。」

「ああ。まるで咲かない花など、この王宮にはないように思える。」

「その通りでございます。全ての花は、王の物。花だけではございません。この世に、王が手に入れられない物など、ございますでしょうか。」

信寧王は、後ろにいる忠仁を、チラッと見た。

「それは言いすぎだ。私とて、手に入れられない物もある。例えば、世継ぎだ。」

「王……」

俯く忠仁。

忠仁は、幼い頃から信寧王に、武術を教えてきた守人であり、第3王妃・紅梅の実の父であった。

「我が娘の紅梅が、王の元にお仕えして3年。未だ子ができず、父親としても申し訳なく思っております。」

忠仁は、庭に膝を着き、王に頭を下げた。

「よいのだ。紅梅は私を、慕ってくれている。それだけで、心が休まる。あれはいい娘だ。」