だが黄杏は、将拓の悲しそうな顔を、見逃す事はできなかった。

「兄様、美麗に惚れていたのでしょう?」

「なんだ。知っていたのか。」

寂しそうに、微笑む兄の将拓。

「想いは伝えたの?」

「ああ。だいぶ昔にね。」


隣の家で幼馴染みだった美麗。

その美しさは、子供の頃から際立っていた。

勉強に励んでいた将拓を、美麗も応援してくれていた。

役人になる為、地方都市の学校に、寄宿生として行く事になった前日の夜。

将拓は、美麗を呼び出していた。


「明日、この村を出て行ってしまうんでしょう?」

泣きそうな声で言う美麗に、将拓は約束を持ちかけた。

「必ず、立派な役人になって帰って来るから、その時には、私の妻になってほしい。」

でも美麗は、困っていた。

「ごめんなさい。将拓の事は好きだけど、私まだ、結婚とか考えられなくて。」

無理もなかった。

美麗は、まだ15歳の大人と子供の境を、さ迷っていたのだから。