「名前は?」
 おお、急に面接みたいに始まった。まあ怪しい人ではなさそうだし大丈夫か。イケメンだし。
「葉山咲薇(はやまさくら)です」
「へえーさくらちゃん。いい名前だね!どういう漢字書くの?普通に春に咲く桜?」
「えっと花が咲くの咲に、薔薇の薇です」
「へーそれで咲薇なんだ!いいね、素敵だと思う」
「ありがとうございます」
 名前と漢字は自分自身でも気に入っているので、久々に褒められて嬉しかった。
「えっと、お兄さんのお名前はなんでしょうか...?」
「俺は海根空藍(かいねあいる)っていいます」
「あいる...。初めてそのような素敵な名前を聞きました!どんな字を書くんですか?!」
「えっとねー、青空の空と藍色の藍であいるって読むんだ」
「へえー!!漢字の組み合わせが綺麗でとっても素敵な名前です!」
 なんと素敵な名前なんでしょう。名前と雰囲気から爽やかな感じが伝わってくる。
 「さくらちゃんは高校生だよね?」
 「はい!高校三年生です」
 「俺は19歳だから一つ上かな」
 通りで大人っぽいと思ったら、年上だった。改めて年齢を聞くと、年上の人には失礼のない様に、と勝手に思ってしまう。
「19歳ってことは大学生ですか?もしくは働いているとか...」
 海根さんの顔を見てみると、キョトンとした顔で私を見ていた。ちょっとドキっとしてしまう。すると、
「んー秘密!また次会った時に言おうかな〜」
 子どもみたいに柔らかなイタズラ顔でそう言った。
「えーなんでですかー?!」
 すると、クシャッと笑みを浮かべながら立ち上がった。
「次の時にね!じゃあまた夕方、土手のどこかで会う時に!またね!」
「え、え、え〜!!!」
 私が驚いている隙に、海根さんは颯爽と階段を上がった。
「次っていつですかーーーー?!?!」
 上に登った海根さんに聞こえるよう私は久しぶりに叫んだ。普段こんなに声を出すことはない。私って意外と声出るんだ。
「次はいつか分かんない!偶然会った時にね!じゃ!」
「えーーーー??!!」
 偶然とはすごく難しいと初めて思った。
 秘密は秘密でも、厳重でない秘密。なぜか、海根さんの秘密を暴くのには時間がかかりそうだ。