鬼の面をかぶった男たちに連れ去られ、寧々子は鎮守の森にあるお堂の中に入れられた。
鬼の面の男たちは床に寧々子を転がすと、今後の算段を始めた。
人間である寧々子や俊之のことなど眼中にないのは明らかだった。
あまりにも腕力に差がありすぎて、寧々子たちを軽んじて拘束することすらしない。
いつでも殺せるという自信があるのだろう。
「霊力の強い、人間の女が手に入るとはな……」
「早く王に見せたい」
「さっさと連れていくか」
「いや、待て。朱雀国から連れてきたと知ったら、まずいのでは?」
「では、そこらで拾ったことにしておけばいい」
寧々子が朱雀国の王の花嫁だと知らない鬼たちは勝手なことを言い出した。
(王って……。別の境国ってこと?)
(この鬼たちは、異界ではなく境国から来たの?)
そういえば境国は四つあり、それぞれ四神の名がついていると聞いた。
ということは朱雀の他に、白虎、青龍、玄武の国があるのだろう。
(境国のことを、もっと詳しく聞いておくんだった……!)
蘇芳に会えることで頭がいっぱいで、朱雀の国のことしか聞いていなかったのはうかつだった。
「王が気に入らなければ、俺たちで食ってもいいな」
「これほど霊力が高い女だ。さぞや美味いだろう」
ゲラゲラと鬼たちが笑い合う。
血なまぐさい鬼たちの様子に、俊之が震え上がっている。
「おまえたち……人間を食うのか?」
怯えた俊之を、鬼たちがおかしそうに見つめる。
「当たり前だろう?」
「俺たちは鬼なんだから」
ぞっと寒気が背筋を走った。
(私……どうなるの? ここで死ぬの?)
(いやだ、私、まだ蘇芳にちゃんと伝えてない。話し合っていない!)
恐怖に震える寧々子の脳裏に、銀花の言葉が浮かぶ。
――必死であがいてそれでもダメなら、少なくとも後悔はしないよ。
(私が考えうるすべての力を使ってあがく――!)
とはいえ、腕力では話にはならないだろう。
(……彼らはさっき『王』という言葉を口にした)
(ただのならず者ではなく、何らかの目的がある組織に属している可能性がある)
(なら……)
「私を連れ去るのも、食べるのもやめたほうがいいですよ」
突然話し出した寧々子に注目が集まる。
まさか怯えているだけの無力な人間の女が声をかけてくるとは思わなかったらしい。
鬼たちが呆気にとられているのがわかった。
「なんだと?」
寧々子は震える手に力を込めた。
(蘇芳、私に勇気をちょうだい!)
こんなときに浮かぶのは、端整な顔をした金色の髪と赤い目をもつ王だ。
「私は朱雀国の王の花嫁です」
「は!?」
「境国に人間の女がいるなんて訳ありに決まっているでしょう?」
できるだけ強気な口調で堂々と言う。
まるで自分が王の大事な思い人であるかのように。
交渉の余地があるとしたら、そこしかなかった。
寧々子は声が震えないよう、必死で強い口調で言った。
「大事な花嫁をさらったり、ましてや食べたりしたら、朱雀の王はどう出るでしょうか?」
効果は覿面だった。
余裕の笑みを浮かべていた鬼たちは、今や困惑した表情を浮かべている。
「おまえ、知っていたのか!?」
鬼たちに詰め寄られた俊之の顔が引きつる。
「あ、ああ。だけど、言う暇がなくて……!」
「ふざけるな!」
「王の花嫁となれば話は別だ! 朱雀国と今、事を構えることになったら――」
鬼たちが俊之の胸ぐらをつかんだ瞬間、お堂の扉が大きく開いた。
鬼の面の男たちは床に寧々子を転がすと、今後の算段を始めた。
人間である寧々子や俊之のことなど眼中にないのは明らかだった。
あまりにも腕力に差がありすぎて、寧々子たちを軽んじて拘束することすらしない。
いつでも殺せるという自信があるのだろう。
「霊力の強い、人間の女が手に入るとはな……」
「早く王に見せたい」
「さっさと連れていくか」
「いや、待て。朱雀国から連れてきたと知ったら、まずいのでは?」
「では、そこらで拾ったことにしておけばいい」
寧々子が朱雀国の王の花嫁だと知らない鬼たちは勝手なことを言い出した。
(王って……。別の境国ってこと?)
(この鬼たちは、異界ではなく境国から来たの?)
そういえば境国は四つあり、それぞれ四神の名がついていると聞いた。
ということは朱雀の他に、白虎、青龍、玄武の国があるのだろう。
(境国のことを、もっと詳しく聞いておくんだった……!)
蘇芳に会えることで頭がいっぱいで、朱雀の国のことしか聞いていなかったのはうかつだった。
「王が気に入らなければ、俺たちで食ってもいいな」
「これほど霊力が高い女だ。さぞや美味いだろう」
ゲラゲラと鬼たちが笑い合う。
血なまぐさい鬼たちの様子に、俊之が震え上がっている。
「おまえたち……人間を食うのか?」
怯えた俊之を、鬼たちがおかしそうに見つめる。
「当たり前だろう?」
「俺たちは鬼なんだから」
ぞっと寒気が背筋を走った。
(私……どうなるの? ここで死ぬの?)
(いやだ、私、まだ蘇芳にちゃんと伝えてない。話し合っていない!)
恐怖に震える寧々子の脳裏に、銀花の言葉が浮かぶ。
――必死であがいてそれでもダメなら、少なくとも後悔はしないよ。
(私が考えうるすべての力を使ってあがく――!)
とはいえ、腕力では話にはならないだろう。
(……彼らはさっき『王』という言葉を口にした)
(ただのならず者ではなく、何らかの目的がある組織に属している可能性がある)
(なら……)
「私を連れ去るのも、食べるのもやめたほうがいいですよ」
突然話し出した寧々子に注目が集まる。
まさか怯えているだけの無力な人間の女が声をかけてくるとは思わなかったらしい。
鬼たちが呆気にとられているのがわかった。
「なんだと?」
寧々子は震える手に力を込めた。
(蘇芳、私に勇気をちょうだい!)
こんなときに浮かぶのは、端整な顔をした金色の髪と赤い目をもつ王だ。
「私は朱雀国の王の花嫁です」
「は!?」
「境国に人間の女がいるなんて訳ありに決まっているでしょう?」
できるだけ強気な口調で堂々と言う。
まるで自分が王の大事な思い人であるかのように。
交渉の余地があるとしたら、そこしかなかった。
寧々子は声が震えないよう、必死で強い口調で言った。
「大事な花嫁をさらったり、ましてや食べたりしたら、朱雀の王はどう出るでしょうか?」
効果は覿面だった。
余裕の笑みを浮かべていた鬼たちは、今や困惑した表情を浮かべている。
「おまえ、知っていたのか!?」
鬼たちに詰め寄られた俊之の顔が引きつる。
「あ、ああ。だけど、言う暇がなくて……!」
「ふざけるな!」
「王の花嫁となれば話は別だ! 朱雀国と今、事を構えることになったら――」
鬼たちが俊之の胸ぐらをつかんだ瞬間、お堂の扉が大きく開いた。