「蘇芳様、どうぞ」
修三がそっとお茶を出した。
「ありがとう。すまないな、客でもないのにくつろいでしまって。どうもこの店は落ち着くので甘えてしまう」
「もったいないお言葉です」
修三が恐縮したように盆を抱きかかえる。
「私のような人間にも門戸を開いてくださって感謝しています」
「いや、こちらこそ職人が来てくれるのはありがたいよ。皆の生活レベルが上がる」
蘇芳がお茶をすする。
修三が寧々子に向き直った。
「お嬢さんもお疲れさま。何か甘い物でも食べますか?」
「そうですね……」
修三の言葉に、ちらっと蘇芳がこちらを見てくる。
なんとなく羨ましそうだ。
(そうよね、疲れている時に甘味はいい気晴らしになる……)
寧々子はピンと来た。
(いい考えがあるわ)
寧々子は蘇芳の顔を覗き込んだ。
猫の化け面をかぶっているせいか、どんどん大胆に行動できる。
至近距離にいるにもかかわらず、蘇芳が自分にまったく気づいていないという余裕のおかげだ。
「蘇芳様は今、飲食店の見回りをしているんですよね? 怪しいものがないか、チェックをしている、と」
「ああ」
「では、この店の商品もチェックしてもらえませんか?」
「え? でも俺は甘味は……」
「でも、王のお仕事なんですよね? この店だけ特別扱いするわけにはいかないのでは?」
思わせぶりに言うと、蘇芳は意図を理解したようでそわそわし始めた。
「うむ。そうだな。実際食べないとわからないな」
「試食をご用意しますね」
実は蘇芳に食べてもらいたいものがあった。
気に入ってくれたら、今日の晩ご飯のデザートに取り入れるつもりだ。
寧々子はいそいそと厨房に入った。
「あの、修三さん。ちょっと新しいデザートを作りたいんだけど……」
修三はピンと来たようだ。
「朝から作ってたやつを使って……?」
「そうです」
「蘇芳様に出してもいいですか?」
「もちろんですよ! 蘇芳様にはウチの甘味をぜひ召し上がっていただきたかったので」
修三は昨日の事件の恩義を深く感じているらしい。
「では、ちょっと失礼しますね」
寧々子は厨房に行き、ずっと考えていた甘味を作ってみた。
「お待たせしました」
寧々子はガラスの器に乗せた甘味を蘇芳の前に置いた。
「クリームあんみつです」
「クリーム……? この白いふわふわしたものか」
「はい。あんみつの上にホイップクリームを乗せました。和洋折衷の甘味です」
「ほお!」
初めて見る甘味に蘇芳の目が輝く。
洋菓子店の跡継ぎである俊之との縁談が持ち上がったとき、寧々子は洋菓子の勉強したのだ。
せっかく和菓子と洋菓子の店が結ばれたのだから、それぞれを組み合わせた新しい甘味が作れないかと考えた。
その一つがクリームあんみつだ。
寧々子はドキドキしながら、蘇芳を見つめた。
蘇芳があんみつとクリームをすくい、一気に口にいれる。
その赤い瞳が大きく見開かれた。
「うまいな!」
掛け値無しの賞賛に嬉しく思う反面、寧々子は少し落ち込んだ。
(昨晩の晩ご飯、頑張ったんだけどな……)
蘇芳から返ってきたのは、「まあまあ、だな」の一言だった。
(しょうがないよね。職人の作ったものと素人の私の手料理じゃ)
それでも、自分が新しく組み合わせて作った甘味が誉められるのは嬉しかった。
修三がそっとお茶を出した。
「ありがとう。すまないな、客でもないのにくつろいでしまって。どうもこの店は落ち着くので甘えてしまう」
「もったいないお言葉です」
修三が恐縮したように盆を抱きかかえる。
「私のような人間にも門戸を開いてくださって感謝しています」
「いや、こちらこそ職人が来てくれるのはありがたいよ。皆の生活レベルが上がる」
蘇芳がお茶をすする。
修三が寧々子に向き直った。
「お嬢さんもお疲れさま。何か甘い物でも食べますか?」
「そうですね……」
修三の言葉に、ちらっと蘇芳がこちらを見てくる。
なんとなく羨ましそうだ。
(そうよね、疲れている時に甘味はいい気晴らしになる……)
寧々子はピンと来た。
(いい考えがあるわ)
寧々子は蘇芳の顔を覗き込んだ。
猫の化け面をかぶっているせいか、どんどん大胆に行動できる。
至近距離にいるにもかかわらず、蘇芳が自分にまったく気づいていないという余裕のおかげだ。
「蘇芳様は今、飲食店の見回りをしているんですよね? 怪しいものがないか、チェックをしている、と」
「ああ」
「では、この店の商品もチェックしてもらえませんか?」
「え? でも俺は甘味は……」
「でも、王のお仕事なんですよね? この店だけ特別扱いするわけにはいかないのでは?」
思わせぶりに言うと、蘇芳は意図を理解したようでそわそわし始めた。
「うむ。そうだな。実際食べないとわからないな」
「試食をご用意しますね」
実は蘇芳に食べてもらいたいものがあった。
気に入ってくれたら、今日の晩ご飯のデザートに取り入れるつもりだ。
寧々子はいそいそと厨房に入った。
「あの、修三さん。ちょっと新しいデザートを作りたいんだけど……」
修三はピンと来たようだ。
「朝から作ってたやつを使って……?」
「そうです」
「蘇芳様に出してもいいですか?」
「もちろんですよ! 蘇芳様にはウチの甘味をぜひ召し上がっていただきたかったので」
修三は昨日の事件の恩義を深く感じているらしい。
「では、ちょっと失礼しますね」
寧々子は厨房に行き、ずっと考えていた甘味を作ってみた。
「お待たせしました」
寧々子はガラスの器に乗せた甘味を蘇芳の前に置いた。
「クリームあんみつです」
「クリーム……? この白いふわふわしたものか」
「はい。あんみつの上にホイップクリームを乗せました。和洋折衷の甘味です」
「ほお!」
初めて見る甘味に蘇芳の目が輝く。
洋菓子店の跡継ぎである俊之との縁談が持ち上がったとき、寧々子は洋菓子の勉強したのだ。
せっかく和菓子と洋菓子の店が結ばれたのだから、それぞれを組み合わせた新しい甘味が作れないかと考えた。
その一つがクリームあんみつだ。
寧々子はドキドキしながら、蘇芳を見つめた。
蘇芳があんみつとクリームをすくい、一気に口にいれる。
その赤い瞳が大きく見開かれた。
「うまいな!」
掛け値無しの賞賛に嬉しく思う反面、寧々子は少し落ち込んだ。
(昨晩の晩ご飯、頑張ったんだけどな……)
蘇芳から返ってきたのは、「まあまあ、だな」の一言だった。
(しょうがないよね。職人の作ったものと素人の私の手料理じゃ)
それでも、自分が新しく組み合わせて作った甘味が誉められるのは嬉しかった。