家の中で暖を取ること20分、ドクターカーと共に訪れた医者の治療は、低体温症の初期症状だった私より、あかぎれが悪化して流血した城崎の手の治療に時間をかけて帰っていった。
居間に残された私と城崎は暫く無言で過ごした。
「新田さん」
居間の炬燵に放り込まれて寝転がる私は、遠目に城崎が覗き込んで来る気配を感じて、咄嗟に目を閉じた。
暫くすると、ウグイス張りの床の音が元座敷牢に向かって響き始めた。
恐怖の音だった床の音に、今は名残惜しい気持ちで一杯になる。
床の音が遠く消えていくのに合わせて、そのまま、私は眠りについた。