「名前は?」
「坂井 日菜」
彼女は素直に答えた。
「どうしたの?」
「……」
「何しにここに?」
恵子さんの問いかけに、彼女は泣きながら怒涛の如く喋り始めた。
顔を上げ身を乗り出し、自分の中のモノをぶちまける。
今までとは余りにもかけ離れた様子に、言葉を飲み込まざる得なかった。
坂井 日菜20歳、4歳年上の彼氏と付き合って1年、事あるたびに罵られ、殴られ続けたらしい。
一分一秒、彼に心を砕かれる毎日。
そんな話を聞かされて、私はすかっり彼女を攻撃する気を失った。
泣きながら、わめき続ける坂井の話を、聞く辛さに耐えるので精一杯だったからだ。
全てが坂井の受けて来た、力と言葉の暴力の話。
心が砕かれて行く話。
坂井は自分を死へと向かわせたエネルギーを必死に、全て口から吐きだそうとしている様に感じる。
多分彼女は今、生きようとしている。
坂井の話しに飲み込まれそうな私を、恵子さんが気遣ってか少し体をよせてくれる。
と同時に坂井は、恵子さんに抱き付かんばかりにすがりついてきた。
「私も味方欲しいです、味方に、味方に~なってください~」
恵子さんは必死に坂井をなだめるが効果はなく、味方になってくれと、懇願しながら顔を恵子さんの左肩に顔を押し付て泣き続けていた。
恵子さんは諦めた様に彼女がするがままに、じっとしていた。
赤の他人の私達が、今の彼女にとっては光なのだと思った。
「私が味方になるから」
半ば観念したかの様に恵子さんは味方を名乗り出た。
恵子さんが乗り気でないのは解る。
見も知らない人の味方など、それなりに覚悟がいる。
相手にすがられれば、突き放すべき時も、支える時も、かなりのエネルギーを費やす事になるからだ。
親身に彼女に寄り添うだろう恵子さんならきっとそうなってしまう。
「ありがとうございます~」
泣きながらお礼を言った、その後も坂井は顔を押し付けた恵子さんの左肩が十分湿り気帯びる迄しっかりと泣き続けた。
10分程して気がすんだ坂井は涙を拭き、豚汁の入っていた丼をそっと私の方に差し出した。
坂井の胃袋はいったいどうなっているのか。
もう、初めて彼女を見た時の面影はない。
すっかり泣き止んだ坂井が丼を差し出す様を見ていると、全て計算づくなのではと思えてくる。
私が新たな豚汁を運んで来た後も全て坂井のペースで事が進んだ。
私と恵子さん、2人の連絡先を得た坂井は3杯目の豚汁を食べながら、陽気に喋り続けた。
スマホ片手に私の目を見つめてそらさない坂井におしきられたのだ。
既に坂井の中では私も味方認定されている。
完全に坂井のペースに巻き込まれていた。
困惑の私、私にこっそり謝る恵子さん、安心したのか陽気に喋る坂井。
しかし、内容は全く陽気ではない。
自分を認めて貰うためなのか、味方を繋ぎ止めたいのか、自分の話をしているのだが、服従の印と言わんばかりに、自分の柔らかい部分を見せ続けてくるのだ。
家族とは疎遠だとか、兄は頭がいいとか、自分は本が好きとか、足が遅いとか、家では浮いてたとか。
聞いてるこちらが気を使って、なだめたくなる程さらけ出してくる。
「あ、もうこんな時間、帰ります。遅くなっちゃう」
突然、話を切り上げて、坂井は丼を抱え豚汁の汁を飲み干した。
出会った時とは比べものにならない程、アッケラカンとした様子で坂井は身支度を始めた。
気持ちの切り替えが激しすぎる。
「今日は私の家に止まって行ったら」
慌てて恵子さんが、引き留めた。
周りに人がいた方が良いのではと、恵子さんが提案したが、明るく断る坂井。
「いえ、じっとしてたら彼氏がきそうで」
「?」
「彼氏、勘が凄いんですよ。私の行きそうな所、解るみたいで、必ず現れるんです」
必ず、この言葉に私と恵子さんは顔をひきつらせた。
恐らく2人とも同じ事が脳裏をよぎっていた。
「さすがに、ここは解らないでしょうけど」
坂井は何も気づいてない。
現代において千里眼の様な事をやってのける方法が1つある。
「スマホ切って!」
私と恵子さんは同時に叫んでいた。
「坂井 日菜」
彼女は素直に答えた。
「どうしたの?」
「……」
「何しにここに?」
恵子さんの問いかけに、彼女は泣きながら怒涛の如く喋り始めた。
顔を上げ身を乗り出し、自分の中のモノをぶちまける。
今までとは余りにもかけ離れた様子に、言葉を飲み込まざる得なかった。
坂井 日菜20歳、4歳年上の彼氏と付き合って1年、事あるたびに罵られ、殴られ続けたらしい。
一分一秒、彼に心を砕かれる毎日。
そんな話を聞かされて、私はすかっり彼女を攻撃する気を失った。
泣きながら、わめき続ける坂井の話を、聞く辛さに耐えるので精一杯だったからだ。
全てが坂井の受けて来た、力と言葉の暴力の話。
心が砕かれて行く話。
坂井は自分を死へと向かわせたエネルギーを必死に、全て口から吐きだそうとしている様に感じる。
多分彼女は今、生きようとしている。
坂井の話しに飲み込まれそうな私を、恵子さんが気遣ってか少し体をよせてくれる。
と同時に坂井は、恵子さんに抱き付かんばかりにすがりついてきた。
「私も味方欲しいです、味方に、味方に~なってください~」
恵子さんは必死に坂井をなだめるが効果はなく、味方になってくれと、懇願しながら顔を恵子さんの左肩に顔を押し付て泣き続けていた。
恵子さんは諦めた様に彼女がするがままに、じっとしていた。
赤の他人の私達が、今の彼女にとっては光なのだと思った。
「私が味方になるから」
半ば観念したかの様に恵子さんは味方を名乗り出た。
恵子さんが乗り気でないのは解る。
見も知らない人の味方など、それなりに覚悟がいる。
相手にすがられれば、突き放すべき時も、支える時も、かなりのエネルギーを費やす事になるからだ。
親身に彼女に寄り添うだろう恵子さんならきっとそうなってしまう。
「ありがとうございます~」
泣きながらお礼を言った、その後も坂井は顔を押し付けた恵子さんの左肩が十分湿り気帯びる迄しっかりと泣き続けた。
10分程して気がすんだ坂井は涙を拭き、豚汁の入っていた丼をそっと私の方に差し出した。
坂井の胃袋はいったいどうなっているのか。
もう、初めて彼女を見た時の面影はない。
すっかり泣き止んだ坂井が丼を差し出す様を見ていると、全て計算づくなのではと思えてくる。
私が新たな豚汁を運んで来た後も全て坂井のペースで事が進んだ。
私と恵子さん、2人の連絡先を得た坂井は3杯目の豚汁を食べながら、陽気に喋り続けた。
スマホ片手に私の目を見つめてそらさない坂井におしきられたのだ。
既に坂井の中では私も味方認定されている。
完全に坂井のペースに巻き込まれていた。
困惑の私、私にこっそり謝る恵子さん、安心したのか陽気に喋る坂井。
しかし、内容は全く陽気ではない。
自分を認めて貰うためなのか、味方を繋ぎ止めたいのか、自分の話をしているのだが、服従の印と言わんばかりに、自分の柔らかい部分を見せ続けてくるのだ。
家族とは疎遠だとか、兄は頭がいいとか、自分は本が好きとか、足が遅いとか、家では浮いてたとか。
聞いてるこちらが気を使って、なだめたくなる程さらけ出してくる。
「あ、もうこんな時間、帰ります。遅くなっちゃう」
突然、話を切り上げて、坂井は丼を抱え豚汁の汁を飲み干した。
出会った時とは比べものにならない程、アッケラカンとした様子で坂井は身支度を始めた。
気持ちの切り替えが激しすぎる。
「今日は私の家に止まって行ったら」
慌てて恵子さんが、引き留めた。
周りに人がいた方が良いのではと、恵子さんが提案したが、明るく断る坂井。
「いえ、じっとしてたら彼氏がきそうで」
「?」
「彼氏、勘が凄いんですよ。私の行きそうな所、解るみたいで、必ず現れるんです」
必ず、この言葉に私と恵子さんは顔をひきつらせた。
恐らく2人とも同じ事が脳裏をよぎっていた。
「さすがに、ここは解らないでしょうけど」
坂井は何も気づいてない。
現代において千里眼の様な事をやってのける方法が1つある。
「スマホ切って!」
私と恵子さんは同時に叫んでいた。