この二週間、ずっと心に引っかかっていることがある。それはあのヘリコプターで見た夢のことだ。妙に現実味を帯びていて、そして生々しいあの夢。

 ――あれは本当に夢だったのか? 

 もし夢なら、なぜあんな夢を見たのか? そして彼の最後の言葉。バタバタと鳴るプロペラの轟音に掻き消されるように聞こえた最後の言葉。

 僕には、彼が「ありがとう」と言った気がしてならないんだ。

「ありがとう」

 確かにそう聞こえた気がするんだ。

 集合病室の中は腐敗臭や、強烈な薬品臭と兵士たちのうめき声で充満していた。誰かが持ち込んだラジオが、四六時中ドランクモアで聴いていたような古臭いカントリーミュージックを響かせていた。

 今では、その古臭い音色をたどるのが病院での唯一の楽しみになっている。聴こえ難くなった耳を必死に傾けながら、僕は故郷と君を思い描く。

 早朝五時には決まって合わせる番組がある。皆、その番組のラジオDJがお気に入りで、数少ない毎日の楽しみになっていた。

 五時ジャスト――そいつはラジオの向こうから力強く、そして軽快に叫ぶ。

「G・o・o・o・o・d! Morning!! Vietnam!!」

 さよならベトナム。お別れの時間だ。僕は愛する人の待つ故郷へ帰る。