そのときだった。僕たちは何者かに狙撃を受けた。弾は当たらなかったものの、弾みで地面に転がった。
グレッグは一早く体勢を立て直すと、木の陰まで僕を引きずってM60の残弾を確認し銃を構えた。
現時点で、おそらく西側はほぼ制圧されている。敵の部隊は南東全域に渡って進撃しているはずだ。嫌な予感が過る。そしてそれは見事に的中していた。
第一・第三中隊の攻撃をすり抜けたゲリラ部隊が、続々と北側から攻め込んで来ていた。奇声とも取れる民兵の雄叫びが膨れ上がり、波のように押し寄せる。
とても太刀打ちできるような数じゃない!
「ベン! 斜面を駆け上がるぞ! 諦めるな!」
僕は折れそうな心を奮い起こし、足を引きずり斜面を登る。穴はすでに制圧されており当然迎撃を受けた。
グレッグが後ろからマシンガンで応戦した。僕は這いつくばってぬかるむ泥水を飲み込みながら無我夢中で斜面を登った。
「ベン! もうすぐだ! 振り返るな!!」
穴を占拠していた敵兵が一人、また一人とグレッグの銃弾に沈む。
「来るぞ! 飛び込め!!」
異様な甲高さを保った轟音が空を切り裂き東の空から近づく。かと思うと瞬時に頭上を通り抜け、ヒューヒューとナパームの投下音が東側で響いた。
続いて閃光が瞬き、追い打ちをかけるように爆音と激震が大地を揺らしていく。一瞬にして空一面が明るく白んだ。
「ギャッ!?」
悲痛な声に振り返るとグレッグが地面に倒れ込むのが見えた。わずかな間に全身が撃たれ、大量に血が噴き出している。
「グレッグ!? おい! グレッグ!?」
「大丈夫だ! 俺は大丈夫だ、ベン」
グレッグが顔を歪ませる。僕は彼の両脇に手を滑りこませ斜面を引きずるが、追っ手は執拗にせまる。
今度は南方からヒューという轟音が響いた。そいつはこの西側一帯を目指してきたといわんばかりに南から爆弾をばらまいていった。真上に迫る空軍の爆撃機が、「チェックメイト」と言わんばかりの音をたて、西の空へ突き抜けていく。
大地が激しく揺れ、すべてを焼き尽くす太い炎の柱が上がった。大きな岩も人間も樹々も、すべてがバラバラに吹き飛ばされた。荒れ狂う炎の蛇が、狂気を増してすべてを飲み込んでいく。
大地を砕く音。
ただそれだけが、僕を殴りつけるように響いた。 迫り来る爆風と爆煙に乗って、えぐり取られた石や鉄の破片が吹き荒ぶ。
細かな破片が顔中に刺さった。残された右目はむしろとなり、視界は真っ赤に染まった。
黒煙が斜面を駆け昇り、熱風で息もできない。
こちらを執拗に追いかけていた敵兵がすべて炎に飲み込まれるのが見えたと同時に、僕たちは穴の中へと転げ落ちた。僕の上にグレッグが被さるように倒れ込むと、頭上を怒り狂った炎が過ぎ去っていった。
――真っ白な炎。
それが、残された僕の右目が見た最後の映像だった。
すべてを無に帰す真っ白に輝く炎。僕を覆うグレッグの体の隙間から見えた一コマが、文字通りすべてを終わらせていった……。
グレッグは一早く体勢を立て直すと、木の陰まで僕を引きずってM60の残弾を確認し銃を構えた。
現時点で、おそらく西側はほぼ制圧されている。敵の部隊は南東全域に渡って進撃しているはずだ。嫌な予感が過る。そしてそれは見事に的中していた。
第一・第三中隊の攻撃をすり抜けたゲリラ部隊が、続々と北側から攻め込んで来ていた。奇声とも取れる民兵の雄叫びが膨れ上がり、波のように押し寄せる。
とても太刀打ちできるような数じゃない!
「ベン! 斜面を駆け上がるぞ! 諦めるな!」
僕は折れそうな心を奮い起こし、足を引きずり斜面を登る。穴はすでに制圧されており当然迎撃を受けた。
グレッグが後ろからマシンガンで応戦した。僕は這いつくばってぬかるむ泥水を飲み込みながら無我夢中で斜面を登った。
「ベン! もうすぐだ! 振り返るな!!」
穴を占拠していた敵兵が一人、また一人とグレッグの銃弾に沈む。
「来るぞ! 飛び込め!!」
異様な甲高さを保った轟音が空を切り裂き東の空から近づく。かと思うと瞬時に頭上を通り抜け、ヒューヒューとナパームの投下音が東側で響いた。
続いて閃光が瞬き、追い打ちをかけるように爆音と激震が大地を揺らしていく。一瞬にして空一面が明るく白んだ。
「ギャッ!?」
悲痛な声に振り返るとグレッグが地面に倒れ込むのが見えた。わずかな間に全身が撃たれ、大量に血が噴き出している。
「グレッグ!? おい! グレッグ!?」
「大丈夫だ! 俺は大丈夫だ、ベン」
グレッグが顔を歪ませる。僕は彼の両脇に手を滑りこませ斜面を引きずるが、追っ手は執拗にせまる。
今度は南方からヒューという轟音が響いた。そいつはこの西側一帯を目指してきたといわんばかりに南から爆弾をばらまいていった。真上に迫る空軍の爆撃機が、「チェックメイト」と言わんばかりの音をたて、西の空へ突き抜けていく。
大地が激しく揺れ、すべてを焼き尽くす太い炎の柱が上がった。大きな岩も人間も樹々も、すべてがバラバラに吹き飛ばされた。荒れ狂う炎の蛇が、狂気を増してすべてを飲み込んでいく。
大地を砕く音。
ただそれだけが、僕を殴りつけるように響いた。 迫り来る爆風と爆煙に乗って、えぐり取られた石や鉄の破片が吹き荒ぶ。
細かな破片が顔中に刺さった。残された右目はむしろとなり、視界は真っ赤に染まった。
黒煙が斜面を駆け昇り、熱風で息もできない。
こちらを執拗に追いかけていた敵兵がすべて炎に飲み込まれるのが見えたと同時に、僕たちは穴の中へと転げ落ちた。僕の上にグレッグが被さるように倒れ込むと、頭上を怒り狂った炎が過ぎ去っていった。
――真っ白な炎。
それが、残された僕の右目が見た最後の映像だった。
すべてを無に帰す真っ白に輝く炎。僕を覆うグレッグの体の隙間から見えた一コマが、文字通りすべてを終わらせていった……。