これでもかというほど傾斜を転げ落ちた。デッドエンドに体が叩きつけられる。相変わらず敵兵の叫び声や銃声は耳には届いたが、追っ手は上手く退けたようだった。
「ベン! お前生きてたんだな! 良かったよ!」
グレッグが水筒を取り出し僕の右目を洗い流す。なんとか瞼を開くと、懐かしい親友の苦々しい笑顔が僕を覗き込んでいた。
「よう、相棒!」
「グレッグ……、生きててくれて本当に良かった……」
もう何年もの間ずっと顔を見ていなかった気がする。緊張の糸がぷつりと切れて涙が溢れた。
「おいおい、泣くんじゃねえよ、情けねえな。お前のことがずっと気がかりでな、ウィッカー軍曹と同じ穴だったんだが、隙を見て抜け出して、お前がいるはずの南側へ下ったんだよ!」
グレッグは背負っていたバックパックを降ろすと、応急処置用の道具を広げ始めた。
「それは?」
「クロフォードの荷物だよ……可哀相に、お前を探しにいって蜂の巣にされちまった」
あらかた処置を終えると、最後に僕の左目をガーゼで覆った。
「目……痛むか?」
「デクスターが言ってたよ。無傷で帰れると思うなって……左耳も聞こえ難いんだけど、これくらいで済んでラッキーかもな」
グレッグは僕の腕をとると、自分の肩に回して僕を立ち上がらせた。
「まだ終わっちゃいないぜ! もうひと踏ん張りしてハンナのもとに戻らなきゃな!」
夜空には雲ひとつなく満天の星が瞬いている。ベトナムへやって来て一番の美しさだった。
「本当に、呪わしいくらいきれいだよな。酒が足りねえよ。神様がいるなら、あそこで遠巻きに見学してないで、おこぼれのワインの雨でも降らしてくんねえかな」
「赤い雨か、ゾッとしないな」
やがて雲ひとつない星空を、雷が轟くような音が響き渡り始める。
それはこの戦場に終止符を打つために鳴り響く音。
それはこの戦場をすべて焼き尽くすために鳴り響く音。
「一体なにが始まるんだ!?」
グレッグが慌てて空を見上げた。
「空軍による空爆だ! グレッグ! デクスターが言ってたんだ。今回の作戦は、僕たちをおとりに使った空撃による殲滅作戦なんだよ!」
「ベン、お前なに言ってる? 空軍が出てくるっていうのか」
「僕と軍曹で敵の砦に行ったろ? そこで見つけたんだ。こちらの陣地の罠や穴の配置を正確に記された見取り図を! 上層部はそれを知ったうえで、僕たちを穴蔵に配置したんだ! 敵を一ヶ所に呼び寄せるために!」
「ベン! お前生きてたんだな! 良かったよ!」
グレッグが水筒を取り出し僕の右目を洗い流す。なんとか瞼を開くと、懐かしい親友の苦々しい笑顔が僕を覗き込んでいた。
「よう、相棒!」
「グレッグ……、生きててくれて本当に良かった……」
もう何年もの間ずっと顔を見ていなかった気がする。緊張の糸がぷつりと切れて涙が溢れた。
「おいおい、泣くんじゃねえよ、情けねえな。お前のことがずっと気がかりでな、ウィッカー軍曹と同じ穴だったんだが、隙を見て抜け出して、お前がいるはずの南側へ下ったんだよ!」
グレッグは背負っていたバックパックを降ろすと、応急処置用の道具を広げ始めた。
「それは?」
「クロフォードの荷物だよ……可哀相に、お前を探しにいって蜂の巣にされちまった」
あらかた処置を終えると、最後に僕の左目をガーゼで覆った。
「目……痛むか?」
「デクスターが言ってたよ。無傷で帰れると思うなって……左耳も聞こえ難いんだけど、これくらいで済んでラッキーかもな」
グレッグは僕の腕をとると、自分の肩に回して僕を立ち上がらせた。
「まだ終わっちゃいないぜ! もうひと踏ん張りしてハンナのもとに戻らなきゃな!」
夜空には雲ひとつなく満天の星が瞬いている。ベトナムへやって来て一番の美しさだった。
「本当に、呪わしいくらいきれいだよな。酒が足りねえよ。神様がいるなら、あそこで遠巻きに見学してないで、おこぼれのワインの雨でも降らしてくんねえかな」
「赤い雨か、ゾッとしないな」
やがて雲ひとつない星空を、雷が轟くような音が響き渡り始める。
それはこの戦場に終止符を打つために鳴り響く音。
それはこの戦場をすべて焼き尽くすために鳴り響く音。
「一体なにが始まるんだ!?」
グレッグが慌てて空を見上げた。
「空軍による空爆だ! グレッグ! デクスターが言ってたんだ。今回の作戦は、僕たちをおとりに使った空撃による殲滅作戦なんだよ!」
「ベン、お前なに言ってる? 空軍が出てくるっていうのか」
「僕と軍曹で敵の砦に行ったろ? そこで見つけたんだ。こちらの陣地の罠や穴の配置を正確に記された見取り図を! 上層部はそれを知ったうえで、僕たちを穴蔵に配置したんだ! 敵を一ヶ所に呼び寄せるために!」