目の前でまた一人戦友が逝った。――結局、僕は彼の願いを叶えてやることができなかった。でも彼は今、最期の望みが叶い、穏やかな表情でその人生に幕を降ろしている。

 本当のところ、ウィズリーはどうだったのか? 頭の中はそればかりが駆け巡っていた。本当に自殺だったのか? それとも誰かに最期を頼んだのか? 

 なにが善で、なにが悪なのか……。この戦争の先に行けば行くほど、見えなくなっていくものがあまりにも多過ぎる。

 今この瞬間、僕自身本当に生きているのかどうかさえ疑わしい。あんなにも疼いて痛んでいた傷は、いつの間にか気づかないほどだし、仲間の死に面しても妙に心は落ち着きはらっている。痛みに対して鈍感になってるってことはつまり、その心が死にかけているということだと思うから。

 ジェフたちのいた穴を這い出し、さらに別の穴中を探して回る。さっきまですぐ近くで鳴り響いていた銃声は、次第に東へと移動しているように感じた。――つまり敵は、西側をほぼ制圧したということだ。

「グレッグ! グレッグ!?」

 穴を覗き、泣き叫ぶ。激しい銃声が近くで響いた。天と地が激しく揺さぶられ、ひっくり返ったような衝撃に襲われる。

 砂利を口中で噛んだような音と、痛みで動かない足。どうやら僕は撃たれたのか? 痛みはさほど感じないし心も落ち着きはらっているのに、まるで動かないこの僕の体に反して鼓動だけが馬鹿みたいに高まっていく。

 抵抗しようにも、この手にはもはやなにものもさえ掴んでいない。残された右目もなぜか縫い付けられたかのごとく開く気配もない。

 僕はここで死んでしまうのか――そう思った瞬間、聞き覚えのある声が乱射音とともに響いた。

「くたばれ! ベトコン野郎共!!」

 激しい罵声を撒き散らし、倒れ込む僕の前に現れたのは紛れもなくグレッグだった。

「グレッグ!?」
「よお、相棒! お前はくたばってねえな!」

 発砲しつつ近づくと、倒れた僕を担ぎあげ、猛スピードで傾斜を下りはじめた。