なんのために戦い、そしてなぜ死んでいくんだろう? このジャングルの暗闇と同じに視界が闇に染まる。

 僕たちは所詮、ルールを知らない子供がプレイするゲームの盤上に置かれた名も無い駒でしかない。彼等は相手の駒を減らすのに躍起立ち、駒の持つ役割も考えずに、ただ単純に消耗戦を繰り広げていくだけ。

 きっと手持ちの駒が無くなれば、優しいパパとママが新しい駒を勝手にいくらでも補充してくれると思い込んでいる大馬鹿野郎たちが僕たちの命運を握っている。

 僕たちはただ、彼らの気まぐれひとつで、人生そのものを大きく揺さぶられるだけの存在だ。守るものも、相手を倒す理由も見つけられないままに、自分たちの命を盤の上に捧げるだけだ。

「お前の銃をよこせ!!」

 失意に暮れた僕が狙いも定めず無暗に乱射するのが気に入らないのか、突然デクスターが叫んだ。僕は引き金を引くのを止めると、飛び交う銃声の中、言われるがまま銃を降ろしそれを手渡す。

 もうどうだって良かった。どのみち、僕たちはこの仕組まれた大きな流れの中では無力だ。荒ぶる激流の中を流れる一枚の葉のように、流れ着いたその先がなんであれ、そこが僕たちの終着駅だ。

「俺が援護してやるから、お前はとっととこの穴から出ていけ!」

 思わぬ言葉に僕は耳を疑った。

「聞こえたろ!? 俺はお前の恋人ほど優しくないぜ!? 自分の身を守る武器はそこらへんの死体から奪いとりな!」

 デクスターは両脇に銃を構え、乱射の勢いをさらに増す。

「でも……それじゃお前は!?」

 デクスターは戸惑う僕を睨みつけると冷たく笑った。

「俺のような人間は、もう普通の世界じゃ生きられないんだ。退屈すぎてな! でもお前は違うんだろ? ここを出たところで、お前みたいな野郎にどこまでできるかしらんが、どうせ死ぬなら最後まで足掻いてみせろ!」

 再び前を向き、「へっ! 食らいやがれ!!」と最後の手榴弾を敵に向かって投げつける。

「行け! グレッグの奴なら西側の穴のどれかだ! もし奴が生きてたら伝えてくれ! お前は俺みたいな良い兵士になれるってな!」

 デクスターの言葉を聞いて、僕は背筋に虫が這いずるような嫌な気分になった。

 つまり彼は知っているということだ。変わっていくことがどういうことなのかを。そして変わりゆく者の苦悩や苦しみや葛藤、そしてそれを乗り越える術のありさまを。――かつての自分がたどった道として。

 結局、デクスターも被害者なのかもしれない。混乱と恐怖と絶望が渦巻く狂気に満ちた戦場は、この密林の葉のように光を遮って、ここで戦う者の心をすべて包み込んでしまう。

 デクスターのような訓練を積んだ正規兵でも僕のような召集兵でも、闇の前には等しい一人の兵士でしかない。その闇こそが、本来戦わなくてはならない本当の敵なんだろうか。

 デクスターの投げた手榴弾が光を放って爆発した瞬間を狙い、僕は穴から這い出した。いつ当たるかもしれない銃弾、砲撃が飛び交う絶望を振り払うように、無我夢中で西の穴を目指す。

 武器も持たず、ぼやけて聞こえる左耳と、光を失った左目。鉄帽や手足を掠める弾丸に、雨のように降り注ぐ砲撃が削り取った岩灘をグレッグが生きていると信じてひたすら這った。

 諦めるという選択肢は僕にはない。進むこの道の先が、たとえ敵の軍勢に遮られたとしてもこの足を止めることはできない。

 不自由な体をばたつかせ、必死にもがいて荒野の先にある家を目指したクリスティーナ……そこにたどり着けなければ、その先の道なんて僕にははなから見えやしない。

 だから、前に進むしかないんだ。

 陣地の西側は少し緩やかに上る傾斜があった。穴蔵の多くはその側面に掘られていて、高い位置から敵を見下ろして狙撃することができた。

 当然奇襲をかける敵にとっても、苦慮すべき場所で、真っ先に制圧しておきたいはずの場所だった。

 東側から流れ込む敵勢は、まず西側の斜面を制圧するために脇目も振らず総攻撃を仕掛ける。そのためこの一帯の被害は他と比べて最も大きく感じた。

「グレッグ……! ……ッ、グレッグ!! どこだ! いたら返事をしてくれ! グレッグ!」

 無数に配置された穴蔵から炎が上っている。地に転がる兵士の亡骸もおびただしい。絶望的な状況だ。進めば進むほど希望を失っていく。僕は叫びながら穴をたどり、グレッグを探した。