「お前も知ってるんだろ!? ここの情報はもはや敵に筒抜けだって! 上層部はそれを逆に利用したんだ。解放軍を一ヶ所に引き寄せられるだけ引き付けて、空撃で一網打尽にする作戦だ。俺たちはそのおとり役に選ばれたんだよ!」

 ――空爆!?

 知らない情報につい攻撃の手を休める。

「空からってなんだよ! 砲兵隊の援護爆破じゃないのか!?」

「死にたくなかったら手を止めるな!」デクスターは撃ち続ける。「軍曹から聞いた話だから間違いない! 今回は空軍が絡んでる! 俺たちは罠にハマったんだ! こっちにランチャーを担いだ北の正規兵がきてるってことは、今頃東側でうちの第一・第二中隊がやり合ってるのはおとりの民兵だ!」

 デクスターの言葉に僕は、一筋の希望も消え去ったような思いだった。

 この後、さらに第一、第三中隊が仕留め損ねた民兵までもが流れ込んでくるとなると、間違いなく身動きなんて取れなくなる。

 それどころか、現在の戦闘でこちらの兵力がどこまで堪えられるのか? 相手にこちらの手の内がすべて晒されている状態で、もはや僕たちは敵の格好の(まと)でしかない。

「デクスター! 今すぐこの穴を出よう! ここは敵にバレてる! 潜んでいてもやられるだけだ!」

 爆音が近くで響いた。敵兵のロケット砲が、またもや味方の穴を正確に撃ち抜く。

「穴を出てどこに行こうってんだ!? じきに砲兵隊、その後は空爆だぞ? 初めっから俺たちに逃げ場なんてねえんだよ!」

 飛び交う弾丸が穴の中にも流れ込み、側面を削っていく。生きた心地がしない。

「僕はこんなところで死にたくないんだ! グレッグを連れて必ず無事に帰ると故郷の恋人に約束したんだ! だからこんな穴の中で死ぬのを待つなんてできない!!」

 そう叫んだ瞬間だった。どこからか投げこまれた敵の手榴弾が僕たちの穴のすぐ近くに転がった。

「ベンジャミン伏せろ!!」

 デクスターが穴に身を潜めるのと同時に、僕を引っ張り穴の中へと身を沈ませた。

 鼓膜が割れるほどの爆音と共に、地上で炸裂した手榴弾は様々な物を辺りに撒き散らす。雨霰と途切れなく弾が降る。左前方に飛び散った爆破片が視界に一瞬映り込むと、屈むのが遅れた僕の顔へ刺さった。

 熱せられた鉄板に顔を押し付けられたような痛みだった。自分の悲鳴で気が遠くなる。顔中がビリビリと燃えるように熱く、目を開くことができない。

「ベンジャミン! しっかりしろ! おい!? ベン!?」

 デクスターの声は遥か遠くに聞こえたが気配をすぐ近くで感じた。
 穴はどうなったのか? 敵は? 僕の怪我の具合は?

 ――言葉を出そうにも、声にならない。

 ようやく頭がはっきりとしてきたのは、それから少し経ってからだった。左の耳は今もボーという低い音が鳴り響き、水の中から音を聞いてるようだ。左の目は激痛で開くことができない。

「あらかたの破片は取り除いたがよ!? 左目は諦めた方が良いぜ?」

 気づけば穴の中で、デクスターが一人で銃を構え応戦していた。どうやら僕は少しの間、意識を失ってしまったようだ。

 恐る恐る左手を目のところまで持っていく、左目のあった場所には大きな穴が開いていた。

「そんな……!?」

 僕は左目を失っていた。その絶望感と、いまだに鳴り止まない狂うほどの銃声と、激痛に、頭がどうにかなってしまいそうだった。

「しっかりしろ!! 無傷でここから帰れるなんて甘い考えは棄てろ!」

 怒鳴るように叫んだデクスターも血だらけだった。僕は、銃をとり隣で応戦する。

 攻め込んでくる敵の数は無限に思えた。倒しても倒しても、悪夢のように湧いた。仕掛けた爆弾もすべて使いきり、振り返れば、あれほど持ち込んだ弾薬も底を尽きようとしている。

 やがて砲兵隊の砲撃が始まると、敵味方の区別なく、爆弾はすべてを吹き飛ばしていった。