翌日、いつもなら僕がグレッグを迎えにいって農場へ向かうところを、早朝の電話で彼を叩き起こして、トラックが出せない事情を説明すると、グレッグは大笑いで僕の元へと飛んできた。
昨夜のことは電話であらかた説明したにも関わらず、彼は事故の詳細をしつこく僕に答えさせようとした。しかもにやけ顔で。
「なあ! なんでだ? なんでおまえはあんななにもない道の隅っこにポツンと建ってる消火栓にぶつかっちまったんだ!?」
笑いを堪えきれないといった様子で、グレッグは質問を繰り返した。
「なあ! 一体なにがあったんだ? 未確認飛行物体でも見たか? それとも親父さんに嫌がらせするつもりでわざとぶつかったのか?」
まったく本当に性格がねじ曲がっている。グレッグがオウムのように唾を浴びせ続ける中、僕はそれを無視して、畑作業に徹していた。
「事細かく丁寧に、もう一度教えてくれよ! 俺馬鹿だからイマイチ状況が読み込めないんだ。あっ! まさか自殺するつもりだったのか!? ああ! 兄弟! なんで一言俺に相談してくれなかったんだ! そうすりゃトラックで消火栓に突っ込んでみたところで、骨折するくらいが関の山だって教えてやったのに!」
いつまでも面白おかしくベラベラと喋り倒す。頭にきた僕は言った。
「うるさいぞ! ちゃんと仕事しろよ! だいたいお前が酔い潰れなきゃ、こんなことにはならなかったんだから!」
怒鳴りつけても、まだなお、彼の品のないにやけ顔は収まらない。
「おいおい、俺たち一体どれほどの付き合いになると思ってるんだ?」作業を続ける僕の手を無理矢理止めると、グレッグは言った。「当ててやろうか? お前は昨日ロザリーの家に来たあの女が気になって見に行ったんだろ。大方、駄目元で行ってみたら本当に彼女を見かけたもんだから、慌てたお前は視線を奪われて、ハンドルを切り損ねたってとこさ」
たまに冴えすぎる彼の勘には、本当に驚かされる。こんな風に、幼なじみの親友が鬱陶しく思えることなんて滅多にないのに。
「違うよ! お前を送った帰り道でやったんだよ!」
心を見抜かれないように薄っぺらな嘘をついても、頭の中にはこんな言葉が浮かぶ。
――チェックメイト。
グレッグが大笑いして僕の肩を叩いた。
「よお、ベン? お前一体この町に何年住んでるんだよ。俺の家からお前の家まで消火栓なんて一本も生えてたことなんてないだろ? あるとしたら少し遠回りしたロザリーの家の方だけだ!」
ズバリ、ご明察。僕はすべてにおいてグレッグに完敗だ……。
「で? あまり話したがらないってことは、好みじゃなかったのか?」
つまりこいつの目的は初めからそれだ。グレッグの脳内では、そこまで推理が進んでいたらしい。辺りを見渡して近くに父さんたちがいないのを確認すると、僕は畑に身を隠すようにしゃがみ込んで煙草をくわえた。グレッグも隣に腰を下ろして煙草に火をつける。
「なんて言うか……まだ昨日知り合ったばかりだからよくわからないけど、女のくせに言いたいことをズバズバ言う、嫌味な女だったよ……」
細い煙を吐き出しながら、ハンナのことを思い出す。自分が正しいと信じて疑わない、あの毅然としてハキハキとした態度。
「ただ……そんな彼女のことを、僕はどこか羨ましいって感じたんだ……自分にはないエネルギーのようなものを持っている気がして……」
僕が話し終わると、グレッグは吸っていた煙草を放り投げた。
「へえ、そりゃこの町にはいないタイプの女だな? ベッドの中ならそのエネルギーの真髄が拝めるかもしれないな」品のない笑顔で歯茎を剥き出す。
「へえ、その前にお前たちのやる気の真髄ってものがあるなら、俺もぜひ見てみたいもんだな」
聞き覚えの有りすぎる声に焦って上を見上げると、そこに悪魔のような形相でこちらを見おろす父さんの姿があった。
「やあ、父さん……少し休憩しようと思ってさ……」
案の定、僕もグレッグも父さんにエネルギーの塊を一発ずつお見舞いされた。
穏やかで退屈な時間が過ぎていく。僕たちにとっては今日が何曜日かなんて一切関係ない。始まったその「日」が、暑いのか寒いのか雨なのか晴れなのか、ただそれだけだ。
トウモロコシの収穫時期に入る頃には、それまで神経を尖らせて常に仏頂面だった父さんの表情も大分柔らかくなる。もちろんそれは毎年のことじゃないが、今年は天候も穏やかで害虫による被害もそれほど大きなものじゃなかった。
父さんにしてみれば、トウモロコシの出来がすべて。
そして僕にとっては、この退屈な毎日が人生のすべてだ。
昨夜のことは電話であらかた説明したにも関わらず、彼は事故の詳細をしつこく僕に答えさせようとした。しかもにやけ顔で。
「なあ! なんでだ? なんでおまえはあんななにもない道の隅っこにポツンと建ってる消火栓にぶつかっちまったんだ!?」
笑いを堪えきれないといった様子で、グレッグは質問を繰り返した。
「なあ! 一体なにがあったんだ? 未確認飛行物体でも見たか? それとも親父さんに嫌がらせするつもりでわざとぶつかったのか?」
まったく本当に性格がねじ曲がっている。グレッグがオウムのように唾を浴びせ続ける中、僕はそれを無視して、畑作業に徹していた。
「事細かく丁寧に、もう一度教えてくれよ! 俺馬鹿だからイマイチ状況が読み込めないんだ。あっ! まさか自殺するつもりだったのか!? ああ! 兄弟! なんで一言俺に相談してくれなかったんだ! そうすりゃトラックで消火栓に突っ込んでみたところで、骨折するくらいが関の山だって教えてやったのに!」
いつまでも面白おかしくベラベラと喋り倒す。頭にきた僕は言った。
「うるさいぞ! ちゃんと仕事しろよ! だいたいお前が酔い潰れなきゃ、こんなことにはならなかったんだから!」
怒鳴りつけても、まだなお、彼の品のないにやけ顔は収まらない。
「おいおい、俺たち一体どれほどの付き合いになると思ってるんだ?」作業を続ける僕の手を無理矢理止めると、グレッグは言った。「当ててやろうか? お前は昨日ロザリーの家に来たあの女が気になって見に行ったんだろ。大方、駄目元で行ってみたら本当に彼女を見かけたもんだから、慌てたお前は視線を奪われて、ハンドルを切り損ねたってとこさ」
たまに冴えすぎる彼の勘には、本当に驚かされる。こんな風に、幼なじみの親友が鬱陶しく思えることなんて滅多にないのに。
「違うよ! お前を送った帰り道でやったんだよ!」
心を見抜かれないように薄っぺらな嘘をついても、頭の中にはこんな言葉が浮かぶ。
――チェックメイト。
グレッグが大笑いして僕の肩を叩いた。
「よお、ベン? お前一体この町に何年住んでるんだよ。俺の家からお前の家まで消火栓なんて一本も生えてたことなんてないだろ? あるとしたら少し遠回りしたロザリーの家の方だけだ!」
ズバリ、ご明察。僕はすべてにおいてグレッグに完敗だ……。
「で? あまり話したがらないってことは、好みじゃなかったのか?」
つまりこいつの目的は初めからそれだ。グレッグの脳内では、そこまで推理が進んでいたらしい。辺りを見渡して近くに父さんたちがいないのを確認すると、僕は畑に身を隠すようにしゃがみ込んで煙草をくわえた。グレッグも隣に腰を下ろして煙草に火をつける。
「なんて言うか……まだ昨日知り合ったばかりだからよくわからないけど、女のくせに言いたいことをズバズバ言う、嫌味な女だったよ……」
細い煙を吐き出しながら、ハンナのことを思い出す。自分が正しいと信じて疑わない、あの毅然としてハキハキとした態度。
「ただ……そんな彼女のことを、僕はどこか羨ましいって感じたんだ……自分にはないエネルギーのようなものを持っている気がして……」
僕が話し終わると、グレッグは吸っていた煙草を放り投げた。
「へえ、そりゃこの町にはいないタイプの女だな? ベッドの中ならそのエネルギーの真髄が拝めるかもしれないな」品のない笑顔で歯茎を剥き出す。
「へえ、その前にお前たちのやる気の真髄ってものがあるなら、俺もぜひ見てみたいもんだな」
聞き覚えの有りすぎる声に焦って上を見上げると、そこに悪魔のような形相でこちらを見おろす父さんの姿があった。
「やあ、父さん……少し休憩しようと思ってさ……」
案の定、僕もグレッグも父さんにエネルギーの塊を一発ずつお見舞いされた。
穏やかで退屈な時間が過ぎていく。僕たちにとっては今日が何曜日かなんて一切関係ない。始まったその「日」が、暑いのか寒いのか雨なのか晴れなのか、ただそれだけだ。
トウモロコシの収穫時期に入る頃には、それまで神経を尖らせて常に仏頂面だった父さんの表情も大分柔らかくなる。もちろんそれは毎年のことじゃないが、今年は天候も穏やかで害虫による被害もそれほど大きなものじゃなかった。
父さんにしてみれば、トウモロコシの出来がすべて。
そして僕にとっては、この退屈な毎日が人生のすべてだ。