ベン、あなたが言う通り、この戦争は無価値で無意味なものよ。

 そしてその大きな代償を払わされるのは、この国の政治家たちではなく、前線で戦うあなたたち。

 あなたが今まさに見ているように、共産主義を目指すベトナムに対して、自分たちの都合だけで民主主義を彼等に押しつけようとするアメリカのふるまいは、ベトナムに暮らす人々にとって、ただの侵略行為でしかないわ。

 そしてあなたが感じるように、自国を守ろうとする彼等の精神力は想像もできないほどに強いものよね。

 人は、守りたいものがあるのとないのとでは、その強さは比べものにならないほど違うものよ。当然、奪い取ろうとするだけのアメリカでは、彼等の鋼の精神力を砕こうとするのは無謀にも等しい行為だと知るべきよ。

 グレッグのことはとても残念ね。私が安易に「わかるわ」なんていえるほど、簡単なことだとは思っていない。でもわかってほしいの。グレッグ自身もこの戦争の被害者だってことを。

 今までの世界が一瞬にしてひっくり返ってしまった状況下で、常に命の危険に晒されながらこれまでと同じように生きていけるほど、人の心は頑丈にはできていないのよ。

 きっと彼も、現実と悪夢の境界線を見失い、あなた同様、変わっていく自分に恐れを抱きながら、必死に自分自身と戦っているはずだわ!

 そんな彼を救えるのは、この世界にあなた以外にはいないのよ、ベン。
 あなたなら、きっと彼が見失った現実と悪夢の境界線を見つけ出して、彼の目を覚ましてあげられることができると信じてるわ!

 お互いに信頼し合えるあなたたちだからこそ、力を合わせて、これ以上大切ななにかを失わずに無事に戻ってこられると私は信じてる!

 あなたやグレッグを苦しめる、今のアメリカのやり方が私は本当に許せないわ。ベン、お願いよ。必ず生きて帰ってきて。

 私も、形は違うけど、あなたのために、そして自分のために、戦う決心がようやくついたの。私ね、パパと一緒にフィラデルフィアに戻って、治療に専念するわ! この決心をくれたのは他の誰でもないあなたよ、ベン。

 あなたがこの戦争から無事に帰ってきた後の時間を、私は本当に心待ちにしているの。十年……二十年……三十年先も、それ以上もっと、私はあなたと二人の時間を過ごしたいって心から望んでいる。

 そのためには、この病気が邪魔なのよ。だから、私はこの病気に打ち勝って必ず私の望むあなたとの幸福な時間を手に入れるわ!

 だからあなたも必ず生きて帰ってきて。
 あなたはひとりじゃないわ! 
 これからは私も一緒に戦うから。
 いつもあなたを想ってるわ。

 湖から愛を込めて(With eternal love, Hanna)