激しいゲリラ戦によって、僕たちの陣形はばらばらになる。作戦もなにも、すでにほとんどの指示系統が失われ、ただ場当たり的に敵を見つけ殺していくだけだった。

 単発の銃声がぽつぽつと響いていた。深手を追って逃げ損ねた敵兵士にとどめを刺している音だ。いくら銃声に慣れていてもこの音には耳を塞ぎたくなる。

 命の燈火を消す最期の音は、混戦中の音よりも遥かにクリアに届いて耳に障った。

「おい! ベン、あれ……」

 グレッグが前方を指した。兵士が木の傍の茂みに倒れている。

「気をつけろよ。最近はブービートラップも多いからな……」

 うなずいて、警戒しつつ血溜まりに近寄ると、そこに倒れていたのはウィズリーだった。

 体には複数の銃創があり、足元に小銃が転がっている。――ウィズリーが敵兵から奪ったと話していたあの小さなピストルだ。

 血だらけの口は輪郭を失い、だらしなく開いていた。前歯は折れ、後頭部には近射による射出口が見られる。少し離れた場所に鉄帽が転がっていた。

 グレッグが銃を下ろして鉄帽を拾い上げる。

「バカが。やっちまったか……」

 銃弾は鉄帽の裏側で留まっていた。内側には小さな肉片と血がこびりついていた。

 ――あまりにも惨い死に様だ。

「二十歳そこそこでこんな形で逝っちまうなんて最低だな」

 グレッグがしゃがみ込み、煙草を取り出すと火をつけてウィズリーに吸わせようとしたが、口の周囲の肉はほとんど剥がれ落ちてしまって難しかった。グレッグは無言で諦めるとため息をついた。

 軽く血を拭いて軍服の乱れを整えてやると、ドッグタグの裏に写真が貼られているのが見えた。

 掠れてはいたが、笑顔の美しい赤毛の女性の写真だった。胸元を握りしめ、小銃を見つめていたウィズリーの姿が浮かぶ。

 思い留まらせることはできなかっただろうか――という思いは当然浮かんだが、それを口にするのは白々しく思えた。明日は我が身だ。

「そいつはあのウィズリーの死体か?」

 亡骸を死体袋に詰めていると、ジェフが茂みから現れた。さして興味もなさそうな態度で、晩のメニューを尋ねる程度の軽々しさだった。声には嘲笑めいた色が含まれている。

「可哀相に。助からないと思って自分で引き金を引いたんだな……。まぁ、どのみちこいつじゃこの先、生き残るのは難しかったろうよ」

 薄ら笑うジェフを前にして怒りと猜疑心が沸いた。遺体をよく見もしないで自殺だとジェフが決めつけたからだ。

 問い詰めようとすると、グレッグが僕の肩を引いた。

「よせよ、ベン。なんの証拠もないんだ」

 要らぬ衝突を避けるため、グレッグは肩に置いた手に力を込めると無言で釘を刺した。

 ジェフはグレッグを見ると、

「よう! グレッグ、お前は何人殺した? 俺は二人仕留めたぜ!」

 と親指を立てた。

 酷い気分だ。兎狩りでも楽しむように殺した人間の数を競っている。グレッグはなにか返していたが、僕はファスナーを閉じてウィズリーを担ぐと逃げ出すようにその場を後にした。

 ぬかるんだ地面のせいで亡骸がひどく重く感じられた。土の上に下ろし、死体袋を引きずるが、枝葉に引っかかりなかなか進まなかった。

 僕たちは、こんな形でしか恋人の待つ故郷に帰ることができないのか? もし、この袋に入っているのが彼じゃなく、僕だったなら……ハンナ、君はどう思うだろうか。