九月末になると、新兵が補充され僕たちは揃って第二中隊へと配置転換された。長い雨季に入る南ベトナムのジャングルを、重たい装備を担いで巡警するのが任務だった。

 朝五時に起床し、薄闇の密林を歩き回る。そして夕刻に陣地に戻ると、僕たちには穴掘りの仕事が待っていた。

 それは待ち伏せのために僕らが潜む穴や敵を誘い込むための落とし穴で、要所要所に作られてカモフラージュを施した。

「袋詰めの次は穴掘りか。いっそそのまま埋めてもらった方が生きて帰れる確率はあがるかもな」

 グレッグはまだ冗談をいったが、笑い合えるような体力は誰も残ってなかった。

「夜の点呼でもし返事がなかったら探しに来てくれよな」

「そしたら俺も後を追うよ。こうぬかるんでちゃな」

 使わなかった穴はそのまま埋めることもあり、もはやどこに穴が掘られているのか自分たちでさえ把握しきれないような状況でうっかり落ちる奴もいた。

「この間スミスの野郎が落ちて足をやってな。大した傷じゃなかったが、敗血症だってよ」

 医薬品は常に足りていない状況だった。戦闘での負傷以外にも、極度の疲労と慣れない環境下での怪我は少なくない。

 ベトナムでは前線と呼べる場所は見当たらない。確かにカンボジアとの国境付近では第一中隊とベトコンとの衝突が頻繁に起きていたけれど、ここではゲリラ戦が主流で相手が軍服を着ているとは限らない現況だった。

 ときには友好協定を結んでいるはずの村人たちが、手榴弾を投げつけてくることもある。交戦した敵が北の自民軍だったのか、南の村民だったかがわかるのは、いつも命掛けで戦いを切り抜けた後だ。

 村人の住み家を守るために戦っているはずの僕たちに彼らは牙を剥く。

 この不条理に直面して、『この戦争は、アメリカの横暴が招いた単なる侵略戦争だ』というハンナの言葉をようやく思い出していた。