新兵だった僕たちにあてがわれた最初の任務は、このベトナムの地で散った同志たちの管理だった。

 南ベトナムの九月は蒸すように暑苦しく、辺り一体に腐敗臭が立ち込める。オリーブ色の死体袋の中には、穏やかな顔で眠ったように横たわる者――なんてのはひとりもいない。

 皆一様に、泥と血に塗れ恐怖に食い潰された表情の者ばかり。四肢欠損はまだマシな方で、体の一部しか袋に入ってない者、原型を留めていない者まで様々だった。劣悪な環境のせいで腐乱はどんどん進み、どの袋も蛆虫の巣窟と化し、酷い死臭にむせ返る。

 ある上官がこんなことを言った。

「彼らこそアメリカの誉れ! 真の英雄だ!」

 どうやら僕が思い描いていた英雄像と、軍で讃えられる雄姿には大きな隔たりがあるようだ。

 基地の一画で、兵士の身元確認や遺体を袋詰めする日々が黙々と過ぎる。配属されてからというもの、あまりの惨状に喋る元気はおろか、思考能力までも蛆に食われている気分だ。

 死体袋は広げれば90インチにもなる巨大なビニールシートで、片側が三角に大きく開いており、兵士の体を入れて包みファスナーを締め上げる。

 完全に密閉されるような精巧なつくりにはなっておらず、平面のシートが折りたたまれた簡易な形だったから、袋を積み上げれば当然内側で腐敗した液体がしみ出してぼたぼたと垂れた。

「まったく、なんだって遠路遥々ベトナムまで来て俺たちが死体の数を数えなきゃならないんだ!」

 そんなグレッグの不平に答えたのは、同期のバークだった。

「戦場に比べれば、ここはまさに天国だと思うぜ? こんな仕事でも、ベトナムの義務期間にカウントしてもらえるんだ。できることなら任期満了までここにいたいくらいだよ」

 バークには二つ歳の離れた兄がいたらしい。だが先に徴兵され、去年の今頃ゲリラ戦で命を落とした。

 任務中に交わした手紙には、精神的に追い込まれ、苦悩する様子が刻々と綴られていた。早くに亡くなった父親の代わりを務め、一家の大黒柱として快活だった兄のその変貌ぶりに、家族は戦場の凄惨な状況を垣間見たという。

 だからこそバークは、今の任務は正に幸福だと言い張った。配属前の軍備訓練なんてないに等しかったから、実戦経験のない僕たちが戦場に出れば、瞬時に死体袋の中で永遠の眠りについただろう。

 でも僕たちはここに死体を数えに来たわけじゃない。南ベトナムの村人たちを救いに来たんだ。
 少なくとも、このときまではそんな風に解釈していた。

 僕たち米軍がこの国で戦う意義――

〝民主主義と自由世界を、共産主義から守ること〟

 上官から聞かされたその真義もよく理解しないまま、僕はそれを鵜呑みにしていた。そしてやがて思い知ることになる。