「希ぃ~遅いよ~」
「ごめんごめん。遅くなったぁ」

 聖和大近くの居酒屋。当時はこの居酒屋が新しくオシャレな溜まり場だった。今ではもうお店も店主も年季が入ってすっかり溶け込んでいる。
 こうして皆で会うのも久しぶりだ。

「おじさ~ん、生ビール一つ追加ねぇ~」

「ね、聞いた? 紫乃の高校全国連覇だってよ」
「空光のとこ、二人目生まれたんだって」

「希、そう言えば今日千風ちゃんは?」
「紫乃が高校の先生とはね、まさかだったけど」

「そう言えばさ早希の子、さくらちゃん幾つになった?」
「空光のご主人も二回目の育児休暇だって」

「千風ちゃんだけだもんね実業団でマラソン(競技)続けてるの」
「早希、今住んでるの大阪だっけ?」

「空光のとこのご主人いいとこに努めてるから」
「希も紫乃もマラソンでも世界で戦えると思ったのになぁ……」


 入り乱れていた会話が止まる……。恐らくみんなの頭の中を駆け抜けたのは青春のフラッシュバック。その駆け抜けた時代のゴールへと引き戻したのは早希の言葉だった。

「さくらがね、『あたしね、箱根駅伝に出るんだ』って」



 襷は繋がる……。



                2023.9         終