8区21.4キロ。スタート直後は相模湾を右手に真直ぐ進む。9キロ過ぎの浜須賀交差点を左折して海に別れを告げ湘南新道へ入ると、9キロに及ぶ上りが待ち受ける。

 15.5キロ藤澤交差点を過ぎてから約700メートル続く『遊行寺の坂』、残り5キロ地点が箱根山中に次ぐ難所と言われる8区最大の難所である。
 海岸沿いの日差しと風が脱水症状も引き起こしたり、前半と後半で走り方を変えなければならない、タフなコースである。
 そして『復路優勝争い』『シード権』と『繰り上げスタート』数々のドラマを演出する8区。

 トップは依然、優勝を掛けたミスの許されないプレッシャー。中盤10位前後は次に繋げるための熱い争いが。下位、『襷はチームそのものである』これを途切れさせてはいけない、ゴールまで届ける強い意志が織り込まれている。


 青坂が逃げる。王者のプライドとチャレンジャーのポリシーを持っている。2位教立が追う……予選会から這い上がってここまで来た、意地の見せ所だ。3位馬引沢が追撃するも教立との差は埋まらない、大学駅伝2冠の強さがある。

 9位任典道大は望洋大、太平洋大に並ばれる。ここで三つ巴のシード権争いが始まる。
 関東学園は何としてでもこれに追い付きたい。

 19位、20位の東京文化大学、司法大は襷を切らすことなく仲間へと繋ぎたい。しかし青坂のペースが速い。2位教立との差も40秒ほど開いた。


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 戸塚中継所

 最後尾を走っていた司法大の3年曲輪(くるわ)が懸命のラストスパートを見せる。左手、少しそれたところに先輩の姿を確認した。
 襷を外す。襷を握りしめた腕を目一杯振り、練習でも見せたことのない必死の形相で走る。
 こっちを向き、両手を振って大声を上げていた先輩がこちらに背を向ける…・…。

 先頭の青学大が通過してから20分を超え、9区の天方(あまかた)は無念の繰り上げスタート。僅7秒ほどの差で自校の襷を繋げなかった……。曲輪は走り去っていく天方の後姿を見て涙を流す。
 きっとこの涙が来年彼を大きくして、箱根に戻ってくることだろう。