「痛!」

 声と共に机と椅子が教室の床と擦れる音、そして堪える低い笑い声が数人から漏れ出た。

「どうしたの? 大輔君」

 2時限目、授業開始早々の事出来事に、先生は開きかけた教科書を教台に伏せる。



 立ち上がって自分のおしりを見る大輔。

「どうかしたの?」
「……何でもありません」

 先生の再度の問いに、『気のせいか』といった風に答えて、乱れた机を戻して着席する。
『クスクス』と再び数人の笑い声がするのを、先生は不機嫌に空気を締め直す。

「はい、静かにしなさい」


 2時限目の授業が終わると20分の業間休みがある。このタイミングは誰もが気を緩める瞬間である。



 先生が教室を出ると、席を立つ大輔にすぐさま光が近づく。

「見ろよ、気付かねーでやんの」

 そう言って大輔のおしりから画鋲を取ってみせる。光は空木をバカにした大輔に悪戯で反撃したのだ。
 いつだって光は光なりのやり方で、谺は谺らしく空木を助けた。


 椅子に画鋲を仕掛けていた。リアクションを楽しむだけのはずが、大輔はさらに『刺さっているのに気付かない』というパフォーマンスまで披露してしまった。

「エンガチョーン」

 そう言って光は画鋲を大輔のことを『よいしょ』している斎藤に押し付ける。
『エンガチョーン』の言葉で斎藤は、反射的にそれをバイ菌のように反応してしまい、まだ板書をノートに写し終えていない健一に当てるようにタッチする。

「はい、タッチィ~」

 その周囲にいる人間たちは『ワァー』と声をあげて離れる。

 ノートが途中であるにもかかわらず勢いよく立ち上がった健一は、逃げ遅れた島田にタッチする。

 タッチゲームの始まりだ。意味のない掛け声と共にタッチして、教室を騒ぎ走り回る。もはや画鋲などどこかに無くなってしまい、空手のままの島田が、黒板を消す谺の元にだらしなく笑みを浮かべて迫ってくる。

「バリアー」

 谺は無表情にそう言って日直の仕事である黒板消しを続けた。この言葉と指を交差するポーズを取ればタッチ鬼の鬼は、その人にタッチできない謎の暗黙ルールが存在する……谺は常に冷静だ。