復路が始まる。



 基本的には午前2時頃に起きる。起きて体を少し動かして、スタートの4時間前には食事を摂る。その後、中継所に向かいレースの1時間前からウォーミングアップを始める。空木も復路スタートの6区を走る青空宙希(あおぞらひろき)と同様のタイムスケジュールを取った。

 青空は2年で空木たちの一つ先輩だ。憎めないキャラで、体育会系の先輩を感じさせない人の良さで光にもよくいじられている。
 新歓コンパでのロシアンワサビ寿司も臆さず先陣を切る。→失敗→光にいじられる。
 キャンパスの中庭ど真ん中で告白。→撃沈→懲りずに同じ場所で告白。→撃沈、を3回繰り返す。
 公園のブランコで一回転。→物理学的に不可能が証明されているにも拘らずチャレンジ。→失敗、幸い大きなケガなし。
 遅刻も堂々。競馬だって大穴に持ち金全部賭けられる。砂山のトンネルだって一気に掘るし、高いところから飛び降りるのだって大好きだ。

 6区、山下りは度胸試しである。

 国道1号線最高地点までは上り、そこから箱根湯本まで一気に下る。下りの平均速度は、時速25キロにも達する。恐怖心に打ち勝つ度胸が必要。選手の脚には想像以上の負担が掛かる。大平台など急カーブが多く、コース取りも難しい。100か所以上のコーナーをいかにロスなく駆け降りるか、テクニックも要求される。箱根湯本駅過ぎの平らな道が、まるで上り坂に感じられる最後の3キロは、特に踏ん張りどころになる。

 難コースである。


 今朝の山中は寒い。路面も凍結している箇所がほとんどだ。