聖和は5区で8位まで順位を下げていた。チームの輪はお世辞にも良い雰囲気とは言えない。
 遠目に伺っていた空木に気付いた調月。希に何かを告げてこっちを指さす。振り向いた希と視線がぶつかり、何故だか逸らした。
 希がこちらへ歩み寄ってくるのが分かる。空木が顔を上げたなら、希はもう目の前にいる。

「うっちゃん、おめでとう。カッコ良かったよ!」

 希は空木の手を取り喜び、眩しいほどの笑顔をぶつけてくる。それはグレアだ……目がくらむ。

「あ、ありがとう。希姉…………あ、あの、……」
「うっちゃん……本当にありがとうね。あたしを箱根駅伝に連れて来てくれて。光も、谺もうっちゃんが居なかったらここまで来ることはできなかった」

「あ、う、うん。そんなこと……」

 話を遮られた形で口籠る空木。

「うっちゃん有名人になったからきっと……きっとうっちゃんにはもっと良い人が現れるよ」

 言われてしまった……薄々は分かっていた。こうなるだろうって……。希姉に、辛いこと言わせちゃったな……。

「……俺のトレーニングの記録のフォロワーが10倍になったから知ってる。『すごいね』の数も」
「ふふっ……うっちゃんに一番初めに『すごいね』したのはあたしなんだからっ」


 ……それも知ってる……希姉ありがとう……。希姉が『すごいね』って言ってくれたから、千風も光も谺も俺をバカにしないで見てくれたんだ……。