大学によってそれぞれ違うが、関東学園大は区間ごとに分かれてホテルに泊まる。空木は5区なので小田原で宿泊。夕食は正月でも営業している近くの大手チェーンファミレスで。付き添い人といると妙な緊張感が発生するので、独りにしてもらった。
1月2日当日は朝6時頃に起きて、軽く走ってきて7時頃にシャワーを浴びて、朝食を摂った。朝食は力うどん。
普段のレース当日はだいたいスタートの5時間前に起きて、体を軽く動かして、4時間前に食事を摂るのがセオリーなのだが、この日は大学に行くのと変わらない時間に何となく起きた。
スタート地点には2時間ぐらい前に入ってアップして補食のゼリーを飲む。山の状況を知らせるメッセージがマネージャーからチーム全体に送られてくる。
朝、小田原の気温は3.6℃。山は-0.3℃だという。天候は晴れ。マネージャーが長袖を用意しようか? と聞いてきた。
(俺が走る頃には気温も上がる、アームウォーマーと手袋を重ねてすれば大丈夫だろう)
マネージャーにはそう返しておいた。恐ろしく冷静だった。朝食の力うどんを食べ始めた頃には東京、大手町では1区がスタートしていた。
* * *
スタート前とは違ってゴールは大騒ぎだった。走り終えたみんなが芦ノ湖に集まっていた。レース後は芦ノ湖で1泊。明日に大手町まで戻る。
疲れていたが、興奮と周囲の騒がしさで寝られなかった。
「空木、すごいね……。おめでとう」
千風と空木がロビーで鉢合わせると、千風は空木から目を逸らしながら言葉にすると、すぐその場を去る。空木は初めて千風に『すごいね』と言われた。他の誰かにはあれほどまでにばらまいているセリフなのに……。
千風は知っている、言葉にも賞味期限がある。ずっと言えないでいた言葉のモラトリアム。
千風は光を探しているようだ。その様子がいつもではない違和感。
(そっか……千風頑張れよ。光ちゃん、よかったね)
双子の感覚であろうか? 空木は何かを悟った気がした。
空木は希を探していた。千風が居るのだから聖和の女子たちも芦ノ湖に来ているはずである、もちろん聖和大男子への激励が建前にはあるに違いないが。
……居た、希は調月煌司と話している。2人の会話へ割って入るようなことができるわけもなく、見守る。その視界に教立大、白雲が入り込んできた。
「よう! すごかったじゃねーか山登り。教立も自信あったんだけどなぁ、いやぁ負けちまった」
「あ、白雲さん! いや凄かったです。高山さん」
「とりあえず今日はおめでとう。でも明日は負けないよ」
「ありがとうございます。それとあの、2区ではその、谺っちゃんが……ありがとうございました」
「どうってこたぁーねーよ……」
「それと襷も……」
白雲は黙って教立大の江戸紫の襷と聖和のパールホワイトの襷に視線を落とすと少し考え込む。
「……告白……するのか?」
まだ調月煌司と話をしている希を指し示す。空木の目を見たのなら、白雲は肩をポンと叩いてその場を後にしたのだった。
1月2日当日は朝6時頃に起きて、軽く走ってきて7時頃にシャワーを浴びて、朝食を摂った。朝食は力うどん。
普段のレース当日はだいたいスタートの5時間前に起きて、体を軽く動かして、4時間前に食事を摂るのがセオリーなのだが、この日は大学に行くのと変わらない時間に何となく起きた。
スタート地点には2時間ぐらい前に入ってアップして補食のゼリーを飲む。山の状況を知らせるメッセージがマネージャーからチーム全体に送られてくる。
朝、小田原の気温は3.6℃。山は-0.3℃だという。天候は晴れ。マネージャーが長袖を用意しようか? と聞いてきた。
(俺が走る頃には気温も上がる、アームウォーマーと手袋を重ねてすれば大丈夫だろう)
マネージャーにはそう返しておいた。恐ろしく冷静だった。朝食の力うどんを食べ始めた頃には東京、大手町では1区がスタートしていた。
* * *
スタート前とは違ってゴールは大騒ぎだった。走り終えたみんなが芦ノ湖に集まっていた。レース後は芦ノ湖で1泊。明日に大手町まで戻る。
疲れていたが、興奮と周囲の騒がしさで寝られなかった。
「空木、すごいね……。おめでとう」
千風と空木がロビーで鉢合わせると、千風は空木から目を逸らしながら言葉にすると、すぐその場を去る。空木は初めて千風に『すごいね』と言われた。他の誰かにはあれほどまでにばらまいているセリフなのに……。
千風は知っている、言葉にも賞味期限がある。ずっと言えないでいた言葉のモラトリアム。
千風は光を探しているようだ。その様子がいつもではない違和感。
(そっか……千風頑張れよ。光ちゃん、よかったね)
双子の感覚であろうか? 空木は何かを悟った気がした。
空木は希を探していた。千風が居るのだから聖和の女子たちも芦ノ湖に来ているはずである、もちろん聖和大男子への激励が建前にはあるに違いないが。
……居た、希は調月煌司と話している。2人の会話へ割って入るようなことができるわけもなく、見守る。その視界に教立大、白雲が入り込んできた。
「よう! すごかったじゃねーか山登り。教立も自信あったんだけどなぁ、いやぁ負けちまった」
「あ、白雲さん! いや凄かったです。高山さん」
「とりあえず今日はおめでとう。でも明日は負けないよ」
「ありがとうございます。それとあの、2区ではその、谺っちゃんが……ありがとうございました」
「どうってこたぁーねーよ……」
「それと襷も……」
白雲は黙って教立大の江戸紫の襷と聖和のパールホワイトの襷に視線を落とすと少し考え込む。
「……告白……するのか?」
まだ調月煌司と話をしている希を指し示す。空木の目を見たのなら、白雲は肩をポンと叩いてその場を後にしたのだった。