上りが始まる入口、小田原本町。以前はこのすぐ先が小田原中継所であった。しかし現在は5区の上りが2.4キロ減った分の距離を4区が上る。15キロ付近の酒匂橋より勝負のポイントとなるのはこのラストの上りが増えたこと。千風はこの最大の難所の手前、ここで光を待っていた。

 次の5区で往路の勝敗が決まる。そのためには少しでも良いポジションで空木に襷を渡したい。上りのスペシャリスト(5区)の走る距離が短くなることにより、以前よりも大差がつきにくくなった分、復路と4区の重要性が増した。
 空木が待っている。往路優勝のために、空木の負担を減らすために、自身の勝利のために、声援をくれた千風が喜ぶ姿を描いて足に力を込める!


 嘘のない想いがもう一度駿輔を捉える。その先に見えていた流風は見えない。そんなバカな?! その想いが駿輔を振り返らせる。

 光は、笑った……。

 箱根登山鉄道ガードを過ぎてあと1キロ。ここを過ぎると角度が上がる、この最後のきつい上りで1秒を削りにいく。



 ついに小田原中継所が見えてきた。道路から逸れて店の駐車場へと入ると空木が両手を振って待っている。
 光は襷を持った左手を高く掲げた。襷には空木への感謝が込められている。光が背負った悔しさは、決して『後悔』ではない。悔しさとは後ろへ向けるモノではない、前へと繋げることだ。悔しさの方向……光はそれを勝利で飾った。



 小田原中継所、関東学園3位。4位教立大。5位聖和大。区間賞は区間新記録で椎名、さらに驚くべく光も新記録で区間2位の走りを見せた。