光のスタミナは予定より消費されていた。……分かっている。これは箱根駅伝。誰もが歯を食いしばって襷を繋げるために限界以上の力を振り絞っている。駿輔を倒すために捨てたプライド、想定内の走りで勝てるほど甘くないからこそ選んだ闘いだ。

 今まで100%の力で勝ってきた。全ての力さえ注げさえすれば勝ててきた。120%? 何だそれ……100%以上の力なんてあるわけない、そう思ってきた。しかし今は、今なら解る……谺もそうだった、自分に備わっていない外部の力……ライバル、声援、自然、幸運、襷……そして……執念。

 そう、執念……駿輔の執念は椎名流風が掛ける藤色の襷をその視界に捕らえていた。光も2人を射程距離にセットし、ロックオンを掛ける。もう一度アクセルを入れる。ラストの上りを考えればエネルギー残量が合わない。
 しかしついに捉えた……。

(パイセン……3年間……お待たせしました)

 言葉にできない……冬の空気を切り裂く走りでメッセージする。それは一気に抜き去ること。横に出ると更にギアを上げる。



 とその一瞬の前、駿輔がポジションをずらした……。



 …………接触…………???



 …………光は転倒した…………