勝負の権田坂……。


 切り立つ斜面に挟まれた道が上りの圧迫感を増す。呼吸も上がる20メートル/1.5キロ駆け上がった達成感を得ることなく下りに入る。
 上った後だからこそ、かなりの急坂に感じる。加速度が意識を無視して足を速めさせ、その重力に負担が蓄積される。

 ここも白雲と並走することで前を走る青坂を抜けた。2位……残すは聖和・調月煌司。その差は9秒!



『戸塚の壁』と呼ばれるラスト3キロが始まる。急坂を1キロ上り、1キロほど下って、また上る。
 谺は限界を超えている。それでも白雲への感謝の力で必死について行く。白雲がスパートを掛ける。襷を外した。
 それを見て谺も襷を外して腕を振る。

 襷だ……襷を繋がなければ……この襷こそが駅伝の命。3区に襷を預けたとたん、意識が途切れた。
 兄・光から託されたエースのプライドが切れた瞬間だった。

 しかし記録は残る……谺、1:06′22″。白雲、記録1:06′24″。調月、記録1:06′32″。関東学園、大手谺、区間賞!

 谺は勝ったのだ。順位は3位だけれど、このエース区間を誰よりも速く走り抜けた。