「光の言う通り、良くないかも……」

 画面を見ながら千風が呟く。

 谺のペースはハイペース過ぎる、気負い過ぎだ。聖和・調月は12キロ地点でトップに立つ。谺は6人抜いて現在3位まで順位を上げた。しかし『権田坂』を前に失速し始めている。

「クソッ……負けるわけには……」

 谺が脚を叩いて鞭を打つ。せっかく抜き去ったのに後ろから追い上げられてくる足音が聞こえる。

(抜き返されて……たまるもんか)

 エースの意地だ。光から託されたエースの名は谺にとってそれほど重い。しかし並ばれた……。
 教立大だ。エースは白雲。

「ついて来い」

 白雲はがそう手振りする。その肩には教立大の江戸紫の襷と聖和のパールホワイトの襷が結ばれている。
 白雲は聖和の襷を預けてくれた恩を、男気で返したのだ。

 戸惑う谺。もう白雲は振り返らない。一瞬の躊躇で差は開く。

「谺っちゃん! いいんだよ! 助けてもらうんだ!」

 千風の声……。そう、いつだって四人の中で谺はみんなを援護する役回りをしてきた。誰かに頼ることは決して恥ずかしいことではない、ずっと感謝してきた。
 そして千風の言葉は谺の背中を押した。

「ありがとう!」

 千風がそう叫んだ……。谺には何が『ありがとう』なのか分からなかった。それでも何故か嬉しかった。気が引き締まる、千風の言葉に応えるように白雲の背中が『よしっ!』と語った気がした。

 谺は白雲に引っ張られるようについて行く。こんな心強いことはない。谺に力が戻る。