2区はエースのぶつかり合い。各大学のエースがプライドをかけて対決する『花の2区』。23.1キロは、復路の9区と並ぶ最長区間である。
 しかし『裏エース』と呼ばれる9区との大きな違いは『ラストの登り』と『最初の下り』の差であると思われる。2区(エース)を走るのにはそれなりの理由がある。



「お先に」

 嫌味たっぷりに告げたのは、聖和当然のエース、調月煌司だ。そして関東学園のエース(2区)を走るのは大手谺。これは光も納得している。光には倒すべき男がいる。調月煌司を倒すのは光を除いたのなら谺以外ない。

「谺になら任せられる……谺なら勝てる!」

 光はそう言った。兄・光のその言葉を力に変えて、今襷を受け継ぎ谺が調月を追う!



 鶴見中継所をスタートして300メートルほどで小さな橋が見える、鶴見橋だ。渡り切った後の下り傾斜で、谺が一気に加速していく。

「前半の平坦で追い付く!」

 谺の意志が強く走りに出される。しかしそれはどのランナーも同じ。エースの名に懸けてトップスピードで走る。


 5人目は順位を一つ上げた教立大白雲だった。白雲も快調のようだ。谺の快進撃に少し驚いたような素振りの白雲。その名に恥じぬ光る白い歯(パールホワイト)を向けたのなら、谺へと言葉のない会話を終えた。

 教立大の前を走る馬引沢も視界に捕らえる。白雲が馬引沢を呑み込もうとするその背後に谺が付く。その後ろ姿には力が漲っていて、教立の襷と共に揺れるパールホワイトの襷も白雲に力を添えているように思えた。

(チッ……希姉も目障りなことをしてくれたな……)

 二人で馬引沢を躱したのなら、聖和の襷を嫌がった谺が視界から消すべくペースを上げる。白雲の本能が、谺から離れないための一歩を瞬時に反応するも、白雲は谺を逃がした。そして徐々に小さくなっていく谺の背中を見送った。


◆◇◆◇

 4区中継所で襷を待つ光は、突然見ていた画面から遠く東の空に目を配る。

 乾いた風は光に何かを届けた。

「千風? 谺を助けてやってくれ……そう……権田坂の前……」

 光は千風にそう電話を掛けた。

◆◇◆◇


 2区の最大のポイントは、難所として知られる14キロ付近から続く『権田坂』。更に中継所の手前、20キロを過ぎてからゴールまで続く凡そ3キロの『戸塚の壁』、そのラスト800メートルは急な上り坂で止めを刺す。
 前半のハイペース、そして権田坂、戸塚の壁……最後の3キロまでプライドを持って走り切った者だけが真のエースの称号を得る。