「おめでとうございます。大手希さん」

 教立大競走部のキャプテン白雲遊哉(はくもゆうや)が希に声を掛ける。グルっと周囲を見渡して選手たちの動向を確認したのなら、一つ頷く。

「改めて優勝おめでとうございます。聖和大女子陸上競技部のみなさん」

 場違いや違和感を思わせていながら堂々たるものだった。そして同様に祝福に駆けつけていた調月煌司にしっかりと視線を合わせた後、再び希に向かい合う。

「出過ぎた真似をして大変申し訳ありません……が、一つお願いがあってまいりました」

 ここでわざと間を開ける。そのことで一際次の言葉に注目を寄せさせることに成功した。期待と不安を示す緊張がこの間を長く感じさせる。

「聖和大男子がいる中で差し出がましいので、お断り頂いても致し方ない。それでもあえてお願いしたい。どうか聖和大女子の襷を教立大(我々)の襷と一緒に箱根駅伝に連れて行かせて頂けないだろうか?」

 驚きだ……そしてこれほど嬉しいことは無い。

(あたしたちのタイムに及ばなかった教立大。それでも本戦に選ばれた、この提案には意味がある、想いがある)

 教立大創立150年の決意、その大切な場所へ希たちの(想い)も連れだって貰えるなんて……。嬉しさの反面、煌司はなんと応えるのだろう? 女心を押さえながら垣間見る。それを察して白雲が目線で調月へと水を向ける。

「どうぞ、お願いします。喜びますよ」

 あっさり譲った……。希だけではなく、聖和女子全員がたったの今まで上がり切っていた熱さを下げられた。この瞬間、希の朧げであったはずの想いがはっきりと音を立てて崩れ落ちた。