「千風ちゃん、ごめん、前追い付けなかったっ!」

 会心の笑顔の紫乃。大好きな先輩、この人から笑顔と襷を受け継ぐ、それだけで千風の気持ちが熱くなる。紫乃の走りをも引き継いでいく。

「大丈夫です!!」

 襷は繋がれる……どんな順位で渡されようとも1番を目指して進むのみ、それがエースの宿命。


 千風〔1年〕5区10.5キロは、最長区間。エースランナーたちが母校の誇りを胸に、しらす街道、田子の浦港、吉原商店街を駆け抜ける。



 往年の高橋尚子選手を彷彿させる走り、千風は積極的に仕掛ける、ギアチェンジしながらライバル選手を一人一人ふるい落としていく。すでに追ってきた2人は振り落とした。
 長距離走におけるスピード、これほどスカッとする見ごたえのある走りはない。 

 2位を捉える。紫乃に負けない瞬殺で追い抜く。その先を行く1位、名古屋と並んだ。さすがに王者のエース。そう簡単には引きはがせない。
 長い距離を走る中でのギアチェンジによる加速、後れを取ることへのプレッシャーを感じながら鞭打つ精神力は体力以上に疲弊させられていく。名古屋はいつしかそのスピードについていけなくなっていた。

 襷を取った後も腕の振りがいい。区間記録を1分以上更新する鮮烈な大学デビューで、1位で襷を繋ぐ。