小雨と風が体温を奪う。この前半戦最後の平坦は思っていたより過酷な様相を呈してきた。

(あ~あぁ……帽子、被ってくればよかったな……)

 紫乃は帽子が嫌いだ。しかし『つば』のあるキャップは雨の日には重要だ。特に紫乃のようなスピード選手にとって、雨粒が顔に直撃することは好ましくない。
 それでも目に入る礫を拭いながら、走りを愉しんでいる。練習でマンホールを踏んで滑って転倒したことだってある。それでも紫乃は『怖い』と思わない。晴れが当たり前で走ってる選手は3流以下だ。雨だって風だってよく寝られたとか今日の占いが良かったのと変わらない。

 紫乃の目が前を捉えた。紫乃の吐く息が白く後ろに流れていく、そのスピードが速くなった。

(前を行くのは2人!)

 視界に捕らえてから並ぶまで一息の間だ。……並ばれた! 2人がそう思った次はもう紫乃の背中を見ていた。

 しかし2人もこのままでは終われない、必死で紫乃の背中に食らいつく。紫乃が再び3位に順位を上げ中継所に飛び込んでくる。4位5位もそれに追従する。

 5区、エース対決だ!