***

 希の大学4年、12月30日、小晦日。『富士山女子駅伝』より遡る事10年。



 静まり返った体育館。

 ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ・ド~……ド・シ・ラ・ソ・ファ・ミ・レ・ド~……単純なメロディと規則的に踏むステップの音だけが空気を震わせる異様な熱気と緊張感が漂っている。
 男女入り混じった大勢の人間が一人を見つめている。

「76……77……」

「よし、はい……そこまで」

 教師がそう言って止めに入ると、周囲からは感嘆の大きなため息が零れて満ちた。

 これは小学生、体力・運動能力測定『シャトルラン』……希は6学年のとき、男子をも大きく上回る記録、いや中学男子にも匹敵する記録を打ち立てた。

 因みにこの時、小学生3年生である千風は57回で全学年の男子たちのほとんどを黙らせる記録を、そしてそれを見た光は61回、谺も60回と中学生並みの記録で意地を見せる。
 ただ空木だけは20回と小学2年生女子並みの記録でとどまった。

 このことは地元の地域の新聞に載り大手家の子供たちと千風はちょっとした有名人となる。彼らが秀でていたのはシャトルランの持久力だけではない、その全ての運動能力は小学生から規格外であった。

 運動会や球技大会では常にヒーローで、身体の使い方だけではなく、俗に言う『(ボール)が手に付く』と言われる感覚……掌や指などがそれを覚える触覚、閃きを嗅ぎ分ける嗅覚、体幹やバランスを司る三半規管、それら経験を次に繋げられるセンスという才能。

 どれもこれも空木には持ち合わせていないモノばかりだった。