春。

 光・谺・空木の3人の姿は関東学園大学にあった。馬引沢大学や青坂学院大は光の成績では難しく、また駅伝の強豪校で1年生でのレギュラー獲得の難易度が高い。

 関東学園は箱根駅伝の出場経験もありながら最近は予選会を突破できないでいる。そして1年生を3人以上使っての最若学年往路優勝記録を持っていて学年による先入観が少ない。


 …………まずは予選会っ! …………


 聖和大女子の希、そして男子部、調月ら、そして関東学園が目指すは年明け、1月2日スタートの箱根駅伝。その本戦への切符を勝ち取らなければならない。そのためには例年10月の第3土曜日、9:35スタートする予選会。会場は東京都立川市の陸上自衛隊立川駐屯地をスタートして立川市街地を周り昭和記念公園内のゴールを目指す21.0975キロのコース。


 本選への出場チームは、①各校チーム内のタイムが短い上位10名をリストアップ②その10人の合計タイムを出す③合計タイムが少ない学校上位10チームが本選に進む、という選出方法。

 勿論、100000メートル=34分以内の記録保持者でなければならず、レースは1時間24分で打ち切られる。


* * *


「早希、また一緒に走ろ! 早希の力が必要なの」
「希……何度も言ったけどあたしはみんなに迷惑をかけた。高校最後の全国大会、あたしのせいで負けた」

「誰もそんなこと思ってない」

「今でもね、正常な月経があると『追い込めていない』『太っている』って過ったりする。あのときあたしは生理が来て、練習が足らないんだって思った。だからみんなの足を引っ張った……」
「……あたしも、ね、集団走でナプキンが落ちちゃったことがあるの……恥ずかしかったぁ……」

「…………」
「そんな話も今ではみんなで共有してる、早智子監督も……恋愛だって『そういう話どんどんして! 女子はそれでたのしくやっていけるんだから』って。同じ時間を過ごした仲間ってそうでない人よりも『共有』のレベルが段違いに高いよね。もし同じものを食べたとしても空間を共にしたから感じ合えること……」
「希も……」

「マラソンってよく人生に例えられるじゃない?」
「…………」
「人生のマラソンって走り方は自由、立ち止まるのも自由。競技でなければサボる理由なんて幾らでもあって、でもそれと同じくらい走る理由がある。多分誰もがみんな体育の1500メートル走なんて好きじゃなかった。5キロ走るのなんて辛くて大変だった。でもどこからか走るのが好きになった……早希……あなたは走る楽しみを知っている……今でもあなたが走っているのも。でもランニングはルールも無ければ難しく考えることもないし自由、でもこれは競技。襷を繋げなければならない責任(きずな)がある。だからこれが最後、もう無理に誘わないわ、あたしにとってもこれがラストチャンス」

「千風ちゃん……ね」
「そう、あなたと合わせて34分内で走れる10人目。ついに条件が揃うわ、これが大学最初で最後の一回だけのチャンス」