有森裕子さんは女子マラソンのオリンピックメダリスト。しかしこの都道府県の駅伝は高校3年間、補欠で出場していない。

「3年連続補欠であった私でしたけれども、連続補欠の思いは、その悔しい思いで得た多くの財産は、その後生かされた」

 全国高校駅伝大会、開会の挨拶でそう述べている。


 谺の思った通り耕作と顧問(サングラス)は空木を見誤っていた。空木は谺がキャプテンを担う3年生まで日の目を見ることはなかった。
 高校3年最後の高校駅伝、ついに掴んだエントリー権、希の走った都大路、その1区を任されることは叶わなかったが、悔しさを財産として積み上げてきたことが実った。


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 高校生活最後の駅伝……1区、言わずと知れたエース区間を谺が、2区3.0キロという5区と並んで最短区間のスピード勝負を光が、8.1075キロ全体的に登りの3区、これを空木が任される。


 今年の風は異常とも言える比叡山からの向かい風。走者にはもちろん、スカートで応援する観客たちにも計り知れない負担となる中、平坦の如く空木が駆け抜ける。

 全7区間42.195キロの内のほぼ半分3区間で勝負は決した。3人が生み出したアドバンテージは圧倒的で、1区2区は区間新記録。
 されど3区は留学生ランナーの起用が多い中、区間トップは空木でも留学生でもなく高山渓介(たかやまけいすけ)という無名のランナーだった。


 空木たちは高校最後の全国大会を栄光で飾ったのだった。


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「この後? うん、大丈夫だけど……何かあった?」

 そう沢音に答えた空木は、近くに居る谺に合図を送ると、谺は全て分かったように先に部室へと向かって行った。