彼らがこの決意を決める少し前……。

「小田原君」

 沢音が空木の後ろから呼ぶ。勇気が固まる前に呼び止めてしまった。部活終わり、一旦部室に戻ってしまえば彼をここに呼びだすのはハードルが上がってしまう。この場所はスタートラインから100メートル地点の『ブレイクライン』。

 一部の陸上部員ではここが告白スポットとして名高い。それまでは決められたレーンを走らねばならず、100メートル経過地点に引かれているこのラインを越えればレーンを離れて自由に走るようになり、それを『オープンになる』と言う。
『それぞれのレーンが合わさる地点』『心もオープンする地点』『友達からブレイクする地点』などの謂れがある。

(右から振り向いたら、自分を異性として見ている、左から振り向いたら、自分を人間として見ている、つまり恋愛対象外)

 このゲン担ぎには心理学的根拠がある。それだけに彼が振り返る姿に胸のトキメキが止められない。それは正にスローモーション。照明を背負った空木が振り向いた瞬間、光が沢音に不快グレアを起こしてくる。

 彼は……どちらから振りむいたのだろう……? それでも沢音は精一杯言葉を続けた。


「この後、少しいい?」