高校からの陸上部同級生では10人のメンバーに足らない。あのときの高校駅伝8人のメンバーの一人は2年生の紫乃だ。そして早希はあの大会以来、走るのを止めている。現在34分の壁を越えられているのは先輩を含めて6人。その先輩の内1人は4年生だ。そして今年の箱根駅伝予選会への参加は不可能に近い。つまりは来年以降に関東陸連に働きかけてエントリーとなると、紫乃が入部しても最低残り4人揃えなければならない。

 未経験でもいい、1500メートルを4′10″くらい、できれば3分台で走れる人がいい。それくらいでなければ34分をクリアできない。
 希はSNSや大学掲示板などを利用して広く呼びかけ、待つだけではなく、仲間などの伝手も利用して積極的にアプローチを仕掛けていく。
『無理無理、走るなんて』
『そんな時間ないって』
 圧倒的な自由、それは女を磨く時間に費やされることがほとんどだ。『青春』よりも『色恋』、『女同士』よりも『異性』。高校生の恋愛なんて妄想だ。次々に断られる、しかしそれでも希は諦めない。

 並行して関東陸連にも打診、自身の活動の拡散と世論の味方を画策する。



 希の狙い通り『硬式女子野球部の甲子園』という前例と時代が追い風となって、正月の風物詩として注目の高い『箱根駅伝』というブランド力が話題を呼んだ。
『女子にも走らせろ』という男女平等を謳った『権利の平等』を訴えたのではなく、『男子と対等に渡り合える能力を得たのなら(・・・・・)』という『箱根駅伝』の価値を下げない条件付きの『チャンスの平等』を願い出たのが共感を呼んだ。

 希のそのルックスがまた注目度をあげる。しかし集まってくるのは有力な情報よりも同情と応援。次に目的の対象を逸脱した案件、つまりは希個人をターゲットにした変質行為や悪戯が多く、さらに次ぐのは反対意見。
 それでも収穫はある。有力情報がある度に希は会いに行き、話をする。

 更に同じ大学の調月煌司の存在が話題を呼び、閲覧数は伸びる。