「『達成感』、かぁ……」

 夜、バイクを走らせてる光が朧に呟く。――とヘッドライトを影が横切る。ハッと急ブレーキを握ると、タイヤを鳴らしたバイクのバランスは路面を滑って倒れた。

 転倒……しかし何かにぶつかることなく身体を強打することはなかった。不幸中の幸い、擦過傷で済んだ。見るも痛々しい皮膚をおろしたような擦り傷。

「痛ってぇ~……」

 思っていたよりスピードが出ていたようだ。ボーっとしていたって自身が制御できない不相応な速さを出せる。操っているつもりでバイクを扱いきれていない。

「……ダッセーな……」

 バイクのミラーとステップは折れ、ハンドルは曲がっていた。千風に『カッコいい』と言われたバイクは一瞬にしてオンボロになった。はたして『ダサい』のはバイクか自分自身か……。

 近所の人が救急車を呼んでくれたのか、遠くからサイレンの音が聞こえる。アドレナリンが痛みより思考を促す。深層心理が今、自身に必要なことは『問題の解決』、それこそが身体が、健康が欲している要求。


(俺は俺の性能を使い切っていたのか? 『全力を出し切る』ってそう簡単にできるもんではないはず)

『費やした時間』のほとんどが『自己満足』なのかもしれない、『努力』という経験値が満たされない人間に真の『達成感』などあろうはずもない。

 傷はズキズキと痛みと熱を帯び、血が止まらない。『必要とされるかどうか』は、そのための経過を続ける者に集まる。
 1+1=2。しかし2であるための方程式は1+1でなくてもよい、これを必要条件。
 必要条件には『才能』や『素質』、『フィジカル』、『運』などという不確定要素や先天性のモノも含まれるのだろう。しかし成果()であるための十分条件の合言葉は『努力』と『継続』だ。

 傷は痛み続ける……きっとこの間モヤモヤといつまでも晴れない胸の痛みは、カッコ悪さ。谺の言う『カッコ良さ』は、瞬時には壊れない礎の上に成り立ち、全力を出し切れたのなら、いつまでも痛まないはず。



 だからきっとこの痛み続ける傷は、自分に非があることの証なのだろう。赤い灯が夜空を騒がしく作り込み、回る光線と同じくらい慌ただしく誰かが話しかけてきた時、心が決まった。