谺以外は光への直接的な意見を避けた。主体的な想い、自発的な行動こそが原動力となる。光を信じていたからこそ。

 中学3年のとき、3人が最上級生になると、光、谺の2人のタイムと他の部員たちの記録がだいぶ離れてしまうようになった。
 努力の要素が大きいと言われる長距離競技であっても、空木の努力はまだ才能の壁には届かない。

 やっぱり駅伝ってチーム競技なんだ。力のある選手もない選手も、できるだけみんなで一緒に練習した方が絶対に良い。そうやって過ごした時間は、絶対に駅伝での最後の力の振り絞り方に影響してくる。

 だから光も谺も練習を実力別で分けるようなことはしなかった。

『全員で』それを共有する。徐々にペースを上げるビルドアップ走では、最速ペースを3分20秒/キロ、2分50秒/キロなど力ごとに3ランクに分けたが、必ず3ランクで一緒に走る時間を設定した。
 また、先に離脱する遅いランク設定の選手たちには、離脱する直前にペースを上げて速い設定の選手を抜き、最後はトップに立って終わるような手法を取った。

『才能のある人間や強豪校には勝てなくても仕方ない』というバイアス。

 光、谺の2人が前を引っ張り、その姿を他の部員も目の当たりにすることで、その偏見をチーム全体が払拭でしていく。
 基本はみんなで一緒に練習して、きつそうな部員がいたら声をかけながら練習する。ジョグも基本は各自じゃなくて全員で。

 空木は感謝している……そんな光だからこそ信じて待った。