気になりだすと今までむしろ嫌悪していた不器用さが愛おしい。スマートじゃなくても懸命さが、陽キャじゃなくとも堅実。会話がおしゃれじゃなくったって誠実。炎のような華やかさが無くても炭火のように秘めたパワーを期待させる芯の部分。

 そして時折面白い。


◆◇◆◇


「お母さん」

 朝のホームルームももう終わろうかというタイミング、空木が手を挙げる。周囲からはクスクスと笑い声が起きる。

「何ですか? 小田原君」

 先生は敢えてスルーして応える。

「お弁当忘れちゃったんで、取りに帰ってもいいですか?」

 更にクスクスが増える。

「……取りに帰らなくても大丈夫みたいですよ……」

 そう言いながら廊下を指さす。そこには遠慮がちに教室を覗きこむ千風の姿。手にはお弁当が入ったいつもの保温バックが。

「いいなぁ小田原は。あれが千風ちゃんの手作りなら許せねぇ」
「お母さんが作ってるに決まってるだろ」
「お母さんって先生のことか?」
「は?」


(う~んもう。私がお弁当作ってきてあげるわよ)

 沢音は千風を睨んだ。光のときと言い、何かと目障りなこの女、向かいのビルからスナイパーが狙っているのなら、真っ先に撃ち殺してほしいと思う。