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沢音の恋は一瞬にして冷めた。何故だか分からない。理屈で整理されていなくとも、気持ちが氷解していた。光では調月煌司に勝てない。そう感じたからであろうか?
……日本新記録……
初めからこの恋は打算でしかなかったから?
思いのままに恋を始めて勝手に見限った、物事には端緒がある。見限った原因は駿輔であることに違いない。しかし天道駿輔ではダメだ、あのカマキリ系の顔が受け付けない。求めるのは容姿と結果、そうであったはずなのに……。
物事には端緒がある……。
代わりに沢音の目に留まるのは……小田原空木……。容姿は……美人の姉を持つ双子だけあって及第点、しかし才能も実績も残していない。それでも光、谺が意識する不思議な人物。
計り知れないポテンシャルへの魅力……。
いつぞやに光の言葉に気まぐれに計った空木の5000mの記録……13′52″12……それはトラックでの光と谺と変わらぬ速さ……トラックとロードでは凡そ10秒の差があると言われるが、空木はそのタイム差がほぼない。
恋の始まりのフックが明確でないことはあり得る。きっと気持ちってそんなもんだ。
心の移り変わりは計れない。