「あたしね、箱根駅伝に出るんだっ!」

 希は宣言した。自分のまわりに集まってた男の子三人と女の子一人。少しお姉ちゃんな希の言葉にキョトンとしている。
 黙ったのは瞬き一つほどの間、女の子が

「じゃ……、あたしも出る~」

 と言ったのなら、

「僕も出る」「俺だって」「僕も僕も!」

 と続く。


 正月二日。家族ぐるみで付き合いのある大手家と小田原家。大人たちは酒を飲みながら時折
『おっ?! 青坂学院がトップに立った』
『さすが優勝候補』
 なんていってはいるが、話題が尽きたときの保険程度に流れているだけのテレビ、『箱根駅伝』。


 しかし希の宣言に良い話題(ネタ)ができたとばかりに話に紛れ込む。

「希ちゃんは脚が速いからきっと出られるよ」
「希が出るなら新年は箱根で迎えなきゃな」

「きっと宿代高いでしょ、今から節約しなくちゃね。あなた、お酒はもうお終いにしてお雑煮持ってこようかしら?」
「箱根駅伝のゴールは昼なんだぞ?! ゴールの瞬間に酒が無くてどうする、ね、小田原さん。まだ刺身もこんなに残ってる」

「ほら希ちゃん、箱根駅伝に出るならお節よりお刺身食べた方がいいよ。こっちおいでイクラあるよ」

「なんで~?」

 酒飲みの大人は絡んできて嫌いだが、希はイクラが好きだ。ついついつられてしまう。希の父親はここぞとばかりに希を捕まえて『ほら、小田原のおじさんにお酒注いであげなさい』と促す。

「や、ありがとありがと。希ちゃんに注いでもらうとお酒が美味しいなぁ」

 大の大人が酒に夢中になって、希の質問には答えを言わない。もう忘れてしまったのだろうか?

「何でお刺身食べた方がいいの?」

 もう一度今度は自分の父親に問うてみる。しかし他の子供たちが『私もお刺身食べる』『ズルい』俺も俺もと入り込んできてコップが倒れるは箸が落ちるはと混乱と化す。