18分29秒!!


 19分を切ることが難しいとされるこの区間、区間新の走りとベストリレーだ! 2位との差を1分弱の差をつけている。

早希(さき)頼んだっ!!」

 2区の走者、向坂早希(さきさかさき)に襷が渡る。早希は応えず走り出す、その姿を見送りながら希は祈りを込める。

(頑張って……無責任なエールしか送れないけれど……でも……)
「早希ぃー、無理すんなよー」

 中継所から正面左、金閣寺に向かって西大路通を走る早希の後姿に思わず叫んだ。次第に右に折れていくその姿を見えなくなっても見つめていた。

 早希の体調が万全ではないことを希は知っていた。エントリーメンバーは8人、出場枠は5名。つまりは3人が控え選手となっている。希も早希も3年。高校生活最後の全国大会。出たくない訳がない、しかしこの大会は襷を繋ぐ駅伝……文字通り我儘がチームの足を引っ張る。意を決して早希は顧問に辞退を申し出た。

 顧問は理由を問うたが早希は答えられなかった。早希はベストメンバーであり副部長でもある。

 体調不良の原因、それは生理……肌荒れやイライラ、生理前のその予兆=PMS〔月経前症候群〕を希は見てとっていた。
 男はそれを分からない、分かるはずもない『経験のできない痛み』だから。

 早希が女性として男性である顧問にそれを言えなかったのなら、希が顧問にそれを言うべきではない。なぜなら早希は顧問に向かう時も、辞退を聞き入れられなかった後も涙を流していたから。
 欧米では自分のパフォーマンスを高めるためにピルなど薬を飲んでコントロールするのが常識だが、日本では選手の対策の意識や知識がまだ足りていない。
 特に男性の指導者にはそう言った情報が届きにくい現状がある。



 2区、4.0975キロは交差点を多く通る区間。金閣寺道、堀川北大路、堀川紫明、烏丸紫明と実に4ヶ所も通る、それだけ位置取りやカーブの回り方が重要視される。これはランナーとしての経験がものをいう、それ故早希を外したくなかった顧問の思惑、1区の希の作ったアドバンテージを守り抜き、最低30秒以上の差をつけて3区に繋ぎたい狙いだ。

 2区中間地点に向けての船岡山の大上り・大下りはかなりの負担となる。