双子たちの少し先行く希はここ、聖和大付属高校で1人の男と出会う。彼の名は調月煌司(つかつきこうじ)
 彼は圧倒的に本物だった。高校から始めた陸上、2年生にして長距離界のトップに立った。

「大手さんって、あの新聞に載ってた……有名人ですよね?!」
「大手希さん、一緒に走らせてもらっていいですか?」
「大手さん、新聞の見出し通りですね、『長距離美人』って」

 人見知りもしない、思ったことを何でも口にする好青年だった。

「希さんより速い男子ってもう俺しかいないなんて、情けない……」
「希さん、一緒に帰らにない?」
「希さん、普段は可愛いらしいのに、走っているときは凛々しいよね」

 2年生で頂きを手にした彼は、そのルックスも手伝って校内外でも注目されるようになっていた。

「希ちゃんのペースに合わせて走るよ」
「ちぇっ、タイムと結果を見てくれよ、一年早く生まれただけじゃん、ね、希ちゃん」
「希ちゃん次の休みの日、出かけようよ」

 安っぽく浮薄さが表立ってきた煌司を良く思わない人間も多い。先輩らはやっかみも手伝って当たりは優しくなくなる。しかし2人の距離は確実に縮まっていた。彼が希に好意を持っているのは明らかで、希もまた彼の才能を愛した。

 それは『箱根駅伝の夢』が彼に託されてしまったかのように。