中学校に上がった希が知った『女子は箱根を走れない』という事実。希は目標を失い絶望したけれども、持って生まれたお姉ちゃん気質はいつまでもクヨクヨしていられるものではなかった。
 女子陸上部の部長としても、中学女子1500メートルの種目(女子では公式戦最長種目)も4分17秒台の日本記録。全国都道府県対抗女子駅伝の中学生区間の3区3キロも9分4秒台の歴代2位記録で有終の美を飾っていた。

 光・谺も姉に続く……光がケガで欠場した夏の全中3000メートル、谺が8分14秒という大会新でVを飾ると、光はその年の国体で、中3高1の『少年男子3000メートル』に出場すると高校1年生らを破って優勝は奪い、且つ8分12秒の中学3000メートル日本記録2位で陸上界にその名を残す。

「すごいなぁ、(こう)ちゃんも、(かっ)っちゃんも。俺も早くみんなに追い付かなくっちゃな」

 空木は県大会を勝ち進めなかった……。しかし確実に差は埋まっている。そして二人の幼馴染の活躍に嫉妬することはない。悔しくない事などない、負けに慣れてしまっている訳でもない、それでも空木は知っている……『何回目のゴールを駆け抜けてもまた、次のスタート(明日)が待っている』ことを。秘めたる想いは『明日を疑わない』ことにある。

 空木は地図を持っている……心にある地図だ。新しい目標や課題が増え、最短距離を駆け抜けるべきための地図ではない。遠回りや回り道だったり、ルートから外れることもある、が迷わない。自分の立ち位置(現在地)と目指すべき場所が明確であるから。